「ここにレストランができるのは当然の流れ」――築地本願寺の山内教嶺(きょうれい)副輪番は、境内にイタリアン・レストランがオープンしたことについて、こう触れた。
9月21日、築地本願寺境内にある親鸞像の横に、自然食材を使った「カフェ・ド・シンラン」がオープンした。同店のテーマは「仏の教えはロハス(環境や健康を優先した生活)」。都市において環境と共生するエコハウス型の店舗で、「自然採光」と「自然空調」の2つの特徴を持つ。同店を運営しているのは、環境問題などを紹介する雑誌「ソトコト」の編集を手がけるトド・プレス。環境に配慮した設計や、国内産の食材を扱うことに、築地本願寺側は檀家(だんか)を含め賛同し、境内での店舗設置が実現した。
同店は、東京・丸の内ビルで営業をしていた「ソトコトLohas Kitchen & Bar」(2006年12月で閉鎖)のコンセプトである“スローフード”を引き継ぐ。ソトコトの小黒一三編集長は「今年の4月にお店の構想が浮かび、築地本願寺に打診した。正直言って、実現できるとは思わなかった」と振り返る。築地本願寺にとっても境内にレストランを設置するのは、初めての試み。店舗を設けるにあたり、税制上の諸問題など手続きに時間を要したそうだ。
食材はフードマイレージ※の観点から、国産にこだわった。国内産16種の雑穀米や農家から直送される無農薬・減農薬野菜を中心に、「旬の食材を使ったヘルシーなメニューをそろえている」と店長はアピール。ランチは「本格インドカレー」のみで、1日限定60食、ディナーは肉や魚料理をメインに1日平均40〜60人が来店している。
店舗のデザインや設計は、「ロハスクラブ」※が開催しているロハスデザイン大賞※などで培ってきたノウハウやアイデアを反映した。店舗デザインの特徴は、3方面にアクリル板を使ったスケルトン構造。境内周辺は高い建物がなく自然の光が入ってくるため、ランチの時間から日没まで、なるべく照明を使わない設計となっている。環境に配慮した空間を作り上げたことで、「通常の飲食店と比べ、電力使用量を50%削減できるのではないか」と小黒氏は期待する。
店内の空調も環境負荷を抑えた設計で、壁面のうち3面の上部に風を通すすき間を設けた。外気を取り入れ天井にある2基のシーリングファンによって、店内の空気を循環させている。これにより店内のフロアにはエアコンを設置せず、自然の空気で循環している(キッチンとトイレ内にはエアコンを設置)。
10月中旬からは、風力や水力などで作られたグリーン電力を使用する予定だ。「電気の使用分だけグリーン電力を購入すれば、CO2排出量は削減される。ここまで環境に意識したレストランは東京では初めて」と小黒氏は話す。
店舗の総工費は約4000万円で、スタッフは5人。1日の売り上げは25万円を目標に掲げ、「赤字を出さないことも重要」(店長)としている。営業期間は12月末までで、その後店舗は撤去する。
築地本願寺の山内氏は、仏教と同店との出合いについて「別々のようであるけれど、実際は切り離すことができない存在」と説明。さらに同店のことを、「現代に生きる私たちが目指すべき循環型経済社会の宝庫」と歓迎した。
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