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» 2007年11月21日 00時00分 公開

ロサンゼルスMBA留学日記:「ディズニー携帯電話事業参入」に伴うこれだけの疑問

ソフトバンクとウォルト・ディズニー・ジャパンが携帯電話事業を開始する。実はディズニーはこれまでも何回か米国でMVNOにチャレンジしているが、思うような成果を上げることができなかった。日本にMVNOという形で参入するのはなぜなのか? その狙いを考察してみよう。

[新崎幸夫,Business Media 誠]

著者プロフィール:新崎幸夫

南カリフォルニア大学のMBA(ビジネススクール)在学中。映像関連の新興Webメディアに興味をもち、映画産業の本場・ロサンゼルスでメディアビジネスを学ぶ。専門分野はモバイル・ブロードバンドだが、著作権や通信行政など複数のテーマを幅広く取材する。


 ソフトバンクとウォルト・ディズニー・ジャパンは2008年春に携帯電話事業「ディズニー・モバイル」を開始すると発表した(別記事参照)。米Disneyという“巨人”が日本市場をうかがい、MVNO※というスタイル自体も業界構造を変える可能性を秘めている。興味深い動きであることは間違いない。

MVNO:Mobile Virtual Network Operatorの略で、自分では通信設備を持たずに携帯電話サービスを提供する事業者を指す。

 両社の強みを生かし、これまでにない携帯電話サービスの提供を目指すとはいうものの、そもそもこの事業を「MVNO」と表現していいのかも、微妙だ。関係者からは「単なるMVNOではなく、協業という形態」「従来のMVNOとは違う」という説明も聞かれる。

海外で立て続けに失敗したDisneyのMVNO戦略

 米Disneyグループはこれまで、米国市場でMVNOに取り組んできた。しかし、失敗を重ねてきたのが現状だ。

 始まりは、Disney傘下にあるスポーツ番組に強いケーブルチャンネル、「ESPN」がSprintのネットワークを利用してMVNOを始めたことだった。「Mobile ESPN」と呼ばれたこのビジネスは、2005年末にサービスを開始。スポーツの試合のスコアをアプリを通じてリアルタイムに配信するといった趣向で、スポーツファンなどニッチ層を獲得することを目指していた。

 しかし結果は、Disneyの思うようなものにはならなかった。2006年頃には、24万人と推測されていた加入者が数万人レベルにしか到達していないことが判明。サービス停止/縮小に向けてかじを切り、2007年にはVerizonと提携して「ESPN MVP」というサービスを提供した。ESPN MVPはMVNOではなく、Verizonが提供する「V CAST」サービスの一環という位置付け。つまり、ESPNは主導的立場から携帯キャリアの“コンテンツパートナー”の立場へとポジションを変更した。

 Disneyグループはまた米国で、別のMVNOにも取り組んでいる。それは2006年4月に発表した「Disney Mobile」だ(参照リンク)。これは小学生から中学生ぐらいまでを対象にした携帯だが、実際は「ファミリーフォーカス」。つまり親を狙ったサービスで、GPS機能を利用した子供の位置把握サービスである「Family Locator」や子供の携帯利用を制限する「Family Monitor」などの機能を売りにしていた。

 しかしこちらも満足いく結果が残せず、2007年末にはサービスを停止する予定。「ESPNの教訓を何ら生かせなかった」という、手厳しいコメントも聞かれる。そんな中で、新たに発表されたのが日本市場へのMVNO(もしくはソフトバンクとの協業)だ。大成功した既存のビジネスモデルを海外にも当てはめる……というスタンスではなく、米国では上手くいかなかったが日本では上手くいくのではないか? という考えともとれる。しかし、成功の可能性は未知数だろう。

本当に独自性あるサービスなのか?

 もう1つ、指摘したいのがDisney Mobileが本当に革新的なのかということだ。前述の通り、Disney側の売りはファミリー向け、子供向けケータイということだ。しかしこれは、日本市場では既に例がある。

ドコモのキッズケータイ「FOMA SA800i」

 子供の管理機能を高めた携帯は、ドコモの「キッズケータイ」を始め多数存在するし、バンダイのキッズケータイ「papipo!」のようにウィルコムのサービスながらバンダイブランドで販売されるものも存在する。ちなみにpapipo!も、位置情報把握サービスが付いている。

 ソフトバンクとしては「Disneyの誇る圧倒的なコンテンツを生かして……」とうたえるメリットがある上、時価総額からいえばDisneyのほうがバンダイよりはるかに巨大だ。だが、子供にとっては「たまごっちの携帯がかわいい!」というのと「ミッキーの携帯がかわいい!」というのは時価総額ほどの違いはない。そういう意味で、米国のサービスに似たものが日本で提供されると仮定するなら、「真に革新的」かどうかは微妙だ。

バンダイの「キッズケータイpapipo!」

「MVNOとしての参入」に意味はあるのか

 さらにDisneyがMVNOを始めるメリットは何か。そもそも論になるが、海外企業が日本で携帯サービスを始めるには、いろいろと障壁がある。1つはネットワーク設備投資で、これを解決するのがMVNOという方法であることは分かるが、それ以外にも障壁は残っている。

 1つ挙げるとすれば、端末を用意することの難しさ。英Vodafoneの前例があるが、海外メーカーが開発した海外仕様の端末を日本にそのまま持ち込むと、なかなかユーザーに受け入れてもらえない。日本仕様の端末にするなら、普通に考えれば日本メーカーに頼むことになるが、現時点でDisneyがシャープやNECといったメーカーと密に連絡をとり合えるのかは分からない。端末メーカーによっては、特定のキャリアとの関係性を深めているため、別のキャリアに端末提供することに抵抗があるとか、そもそも複数キャリアに端末提供するだけの開発リソースがないといった場合もあるだろう。

 Disneyとしてもそういった苦労をするよりは、既存プレーヤーとコンテンツ提供の形で提携した方が早く、現実的だ。ソフトバンクとの取り組みが「単なるMVNOでなく、協業という形態」と説明されているのも、以上のような理由からではないか。もちろんブランドはDisneyのものにしたいし、キャラクターをどう利用するかという面でもイニシアチブを取りたい(Disneyは自社ブランドの管理に特に厳しい会社だ)から、MVNOで“携帯キャリア”になってみた、のではないか。

 日本では映画やキャラクター商品、テーマパークのイメージが強いDisney。今や4大放送局の1つであるABCを買収し、Pixar買収にともない米Appleとの関わり合いを深め、番組のiPod配信なども積極的に行う巨大メディア・コングロマリットだ。要するに、コンテンツ制作の部分と、コンテンツ配信(もしくは放送)という部分を全部自社内に持っている。そのため、日本でも単なるコンテンツ提携というよりは、もっと下のレイヤーである「ネットワークの部分も持ちたい」という発想になった、のではないだろうか。

 このサービスが非常に興味深いのは事実で、筆者としても必ずしも失敗するだろうとは思わない。ただ、驚天動地のサービスだとして大々的に書き立てるべきサービスかというと、現時点では成功確率/革新性なども含めて「それほどでもない」かと思う。

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ディズニー | MVNO | ソフトバンク | バンダイ


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