2007年に起こったFeliCa関連の動きについて、ジャーナリストの神尾寿氏と、Business Media 誠の吉岡綾乃編集長が振り返る、年末年始対談企画。交通IC乗車券の話題を中心に振り返った前編に続き、後編ではスーパーでのFeliCa決済やポストペイ型FeliCaクレジットなどのサービスが“伸び悩んだ理由”を考えていきます。
吉岡 今年の動きといえば、夏はコンビニの電子マネー導入がかなり進みましたよね。今、電子マネーが1つも使えない大手コンビニはないんじゃないでしょうか。
神尾 そうですね。コンビニの大規模展開が、全国的なFeliCaの広がりの追い風になりました。
吉岡 逆に、気になるのはスーパーですね。イオンはWAONをコンビニではなくスーパーから導入し始めました。利用件数が公開されていないので、どれくらい使われているか分からないとはいえ、発行数の伸びに比べると利用されている印象があまりありません。11月からは結局、ミニストップでも導入を始めましたね。
神尾 スーパーの場合は、以前からクレジットカードをサインレスで使えたことがFeliCaには大きな逆風になったんですよ。
吉岡 イオンカードの稼働率はものすごくいいと聞きます。
神尾 スーパーは元々、現金利用ニーズの高い客層ですし、しかもサインレスでクレジットカードが使えるところが多く、FeliCa電子マネーの必然性が低い。その点、nanacoは現金以外はQUOカードくらいしか使えなかったセブン-イレブンで、ポイントプログラム付きで始めた。nanacoの利用率は高くなって当然なんです。
吉岡 WAONはスーパーからコンビニ、nanacoはコンビニからスーパー(3月から)という流れで、導入の順序がちょうど逆になりましたね。
神尾 あと、仙台のスーパー「アサノ」ではFeliCa電子マネーがたくさん使われています(参照記事)けど、あそこはそれまでクレジットカードが使えなかったんですよね。沖縄も似ていて、県民のクレジットカードニーズそのものが極端に低いんです。
吉岡 すでにクレジットカードがサインレスで使えるところに、FeliCa決済が入り込むのは難しいということですね。確かにそうかもしれない。
神尾 クレジットカードが使えないお店や、クレジットカードを嫌うユーザーの多さが、電子マネー普及の鍵になっているわけで、クレジットカード利用率が高くな(れな)かったところほど、電子マネーでうまくいっているんです。逆に、平均並みか平均以上にクレジットカードが使われている場所だと、電子マネーの利用拡大は厳しいでしょうね。
吉岡 クレジットカードの利用率が高くないところというと、コンビニとか駅売店のほか、何があるでしょう? 自販機ですかね。
神尾 自販機は大きいですね。あと宅配便の着払いはかなり期待できます。タクシーも可能性が大きいでしょう 。
――クレジットカードが使えないから電子マネーが使われるというのは分かるのですが、そうなると、iDやQUICPay、VISA TOUCHといったポストペイFeliCaはどう考えればいいでしょう。ポストペイのFeliCa決済はクレジット払いですが、何かクレジットカードとは違う感覚があるのでしょうか。
神尾 カード券面を出さなくていいし、サインが不要なのが大きなメリットですね。スーパーは、既存のクレジットカード利用者向けに、ポストペイのカード/おサイフケータイで利用促進した方がうまくいくでしょうね。例えば、ゴールドカードをイオンのレジで出したくないわけですよ(笑)。だから、私はいつもiDで決済しています。あと、タクシーとかもそうかな。金額的、シチュエーション的に、カードを出しづらい場所があって、そこをポストペイFeliCaはうまく補完してくれます。クレジットカード事業者は、クレジットカードを見せたくない・出したくないという状況が、あまりイメージできていないんじゃないでしょうか。それがイメージできると、そこにポストペイの活路が見いだせるのですが。
吉岡 私は、ポストペイFeliCa決済が普及しない理由は、カード型にこだわりすぎて、クレジットカードとの違いが感じられないからだと思うんです。「サインレスでクレジットカードを使うのと、かざしてポストペイFeliCaで払うのと、何が違うの?」という疑問はすごく当然だと思うんですよ。神尾さんのような人はまだまだ少数派で、現状はそういう疑問を持つ人が多数派だろうと思います。
ポストペイFeliCa決済は、カード型にこだわらないほうが成功すると私は思っています。1つのアプローチはおサイフケータイ。今だと、せっかくおサイフケータイで払えるのに、やることはクレジットカード払いと一緒なんですよね。おサイフケータイをかざしたあと、レシートとクレジット明細を紙で2枚受け取って、財布にしまう。せっかくケータイに通信機能が付いているんだから、レシートも明細もデータでピッとケータイに送ればいいじゃない、と思うんです。「わざわざ紙で受け取らなくてもケータイで簡単に済むし、履歴も液晶画面で見られますよ」というようにすれば、「へー」と思う人は一定数いるはずです。レシートはともかく、クレジット明細って捨てにくいでしょう?
それにコンビニのレジで紙のレシートが山になっているのを見ると「紙資源の無駄遣いだなぁ」と思いますよね。「おサイフケータイで支払うことがエコになる」というキャンペーンはアリだと思うんです。JR東はすでに「Suica DE ECO」をやっているんですから(参照記事)
神尾 利用明細をメールで送ってくれるのはいいですね。レシートは購入証明で必要でしょうけど。
吉岡 レシートをしまうためにリアル財布を取り出す必要があるなら、おサイフケータイで払う意味がないんですよね。
神尾 あー、それはある。
吉岡 そして、もう1つはキーホルダー型とか、もっと立体的なFeliCaデバイスを使う(参照記事)というアプローチ。最近、ガソリンスタンドにFeliCa決済がどんどん入ってきているんですが、これもカードで払うのと同じなら、別にVISA TOUCHで払う必要はないわけです。ニコス発行のガソリンスタンドカードで払えばいい。でも、FeliCaチップを埋め込んだキーホルダーがクルマのキーに付いていたら、「ちょっと便利?」という話になるかもしれない。
神尾 トヨタファイナンスがレクサス向けの専用QUICPayキーホルダーを作ればいい(笑)。クルマのキーホルダーって、自動車ブランドと同じものを付けたいですからね。
吉岡 「何かクレジットカードとは違う感覚があるのでしょうか」の答えを見つけられないかぎり、ポストペイFeliCa決済はなかなか普及しないと思いますよ。
――FeliCaを使える場所は増えたけれど、使い方やユーザー側の道具がもう一歩という状態、ということなんでしょうね。
神尾 そうですね。だから、クレジットカードが“今、どこで使われていないか?”をもっと研究して、それを埋め合わせられるものとして考えてほしいところです。
吉岡 サインレスでクレジットカードが使えるところは、ずいぶん増えていますからね。抵抗ない人は、それで使っているでしょうし。
神尾 あと、意外とライバルになりそうなのがEMV※ですね。
吉岡 あまり使っている人、見ませんねえ。
神尾 最近、EMV加盟店は増えていますよ。パスワードをきちんと覚えていると決済処理もそこそこ速いし、サインもいらないので実は便利です。ポストペイでパスワードが必要な価格帯になると、EMVとの差がほとんどない。
吉岡 日本のクレジットカードは「サインレス」または「サインするけど見ない」が主流な気がします(笑)。
神尾 まあ、とにかくポストペイは新しいクレジットカード“文化”を作らなくちゃダメだと。
吉岡 iDはどうなんでしょう。途中からカード一体型が出てきちゃった(参照記事)とはいえ、ドコモは「おサイフケータイで払う」というスタイルをずっと主張し続けていたじゃないですか。DCMX miniはそこそこ利用されているのではないかと思いますけど、新しいクレジットカード文化だと思われているのでしょうか。
神尾 iDは事実上、ドコモ=三井住友カード専用なのが最大の課題ですよ。まあ、それでここまで加盟店が増えているのはすごいことですけど。前編でした話とかぶりますが、ANAマイルの世界でEdyの立場が弱くなったことで、少なくともANA=VISAユーザーのiD利用は増えそうなんです。だけどそこで問題なのが、iDがドコモのおサイフケータイでしか使えないことなんですよ。
吉岡 そうですよね。
神尾 ANA-VISAカードにiD一体型はないので、ドコモのおサイフケータイでしか使えないんです
吉岡 ANA-VISAカードを持っているauとソフトバンクのユーザーはどうするの、と。
――auとソフトバンクがiDに対応することはあると思いますか?
神尾 難しいでしょうねぇ。少しでも可能性があるとしたら、いい意味で、こだわりなくFeliCaサービスを受け入れているソフトバンクモバイルの方でしょうか。
吉岡 ドコモ色が薄まらないと難しいでしょうね。auの端末にはQUICPayのアプリがプリインストールされていますし(参照記事)。
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