電子マネーがヒット商品に選ばれた2007年。伸び悩むサービスの課題とは? 2007年のFeliCa関連ニュースを振り返る(前編)(1/2 ページ)

» 2007年12月28日 17時26分 公開
[聞き手:房野麻子,Business Media 誠]

 PASMO、nanaco、WAONなどの新興勢力が登場、電子マネーやIC乗車券などさまざまなFeliCa決済が全国的に広まった2007年。2007年のヒット商品に「電子マネー」が選ばれるなど、今年はこれまでにないほど、FeliCa関連の話題が注目を集めた年だったといえます。

 2007年に起こったFeliCa関連の動きについて、ジャーナリストの神尾寿氏と、Business Media 誠の吉岡綾乃編集長が振り返ります。

 →2007年のFeliCa関連ニュースを振り返る(後編)

さまざまなFeliCaサービスが一般に広まった2007年

――2007年のFeliCa関連ニュースを振り返ってみると、PASMOスタートが非常に印象的です。

神尾寿(以下神尾) 鉄道系ICの広がりが顕著でしたね。今年はSuica&PASMOから1年が始まった気がします。

吉岡綾乃(以下吉岡) 3月にスタートしたPASMOとSuicaの相互利用(参照記事)ですね。

神尾 その後、流通系電子マネーとして、セブン&アイグループのnanaco(参照記事)、イオングループのWAON(参照記事)の発表が続き、Business Media 誠の創刊(4月2日)とちょうどシンクロしました。最初期の誠では、PASMOとnanacoの記事が非常に注目されていましたよね。夏頃からFeliCaが使える場所が全国的に急増しましたし、そういう意味では、今年はFeliCaのサービスが本当の意味で「一般に広がった年」になりましたね。

吉岡 そうですね、交通系の次には流通系と、ニュースがどんどん続いて。ここ数年、年の瀬になるたびに「来年はFeliCaが本格的に普及する年になる」と毎年言い続けていた気がしますが、2007年こそはホントに普及し始めたと言えそうです(笑)。

3月18日、首都圏のバス・私鉄・地下鉄に1枚で乗れるIC乗車券「PASMO」がスタートし、新宿駅でセレモニーが行われた。JR東日本のSuicaとの相互利用も同じ日に始まった

nanacoのオープニングセレモニーは4月23日(左)、WAONのオープニングセレモニーは4月27日に行われた(右)

――夏には複数の決済方式を導入するコンビニも出てきました。

神尾 FeliCa決済の面的な広がりとリーダー/ライター共用化の流れがちょうどシンクロして、2006年までは“先進的な取り組み”だったFeliCaや電子マネーの利用場所が、特別なものではなくなりました。

吉岡 プリペイド電子マネーでまずは体験して、徐々にポストペイ(クレジット)へ移行するという流れは悪くないと思います。象徴的だったのが名古屋の事例(参照記事)ではないでしょうか。もともとEdyが強かったところに、ドコモがiDを入れていき、さらにトヨタファイナンスがQUICPayをガツンと入れた。名古屋のいろいろなところで、「Edy/iD」や「Edy/QUICPay」の端末を見ました。

神尾 プリペイドとポストペイの関係は、“移行”じゃなくて“並列”かなあと、最近は思っています。

――Edyの存在感が、やや薄まってきているということはありませんか?

神尾 ヘビーなEdyユーザーの一部がポストペイに移行しているんですよ。Edyだけだった(かざすだけで支払いが完了という)メリットが、ポストペイや他のFeliCa決済に広がったので、Edyに限らず自分に合ったものを選ぶようになったわけですね。

吉岡 Edyをサービス開始当初から使っていた人たちは、複数の決済手段を使っている印象がありますね。

神尾 そういう意味で、やはり“並列・併存”になっていくのかなあ、と。Edyを完全にやめて、他の方式だけってことはないと思いますよ。特にプリペイドとポストペイは補完関係になりますから。逆にポストペイ同士は、共用化が進めばどちらかに偏る傾向はありますが。

吉岡 Edyには強力にバックアップしてくれる企業がいないのが、印象が薄くなった原因ではないかと思います。ドコモがiDを始めたら、Edyを贔屓にしてくれなくなりましたから。Suicaやnanacoなんかと比べると、Edyは良くも悪くも中立的な立場ですよね。

神尾 中立的というか、これまで選択肢が少なかったから、必然的にEdyが使われていた、という面はあると思いますよ。

――iDは、どんどん広がった印象がありますね。

神尾 例えば、ANAマイルで考えると分かりやすいんですけど、今までANAマイラーにとっては、EdyをANAカードでチャージすることでポイント(マイル)を獲得し、Edyを利用してまたマイル獲得する、というのが黄金パターンだったんです。でも、三井住友カードが、Edyチャージに対するポイント付与をやめることで、今後はANAカードのiDを使った方がマイルを獲得しやすくなるわけです。ANAマイラーにとって、EdyだけがFeliCa決済の黄金パターンではなくなるので、今後はANA-EdyとANA-iD派に棲み分けされていくのかなあ、と予想しています。

吉岡 夏から秋くらいにかけて、Edyチャージでポイントが付くカードがだんだん減っていって、陸マイラーにとってEdyの魅力が減ってしまった、という面はありますよね。あと、その前の段階ですが、やはりおサイフケータイにEdyのアプリがプリインストールされなくなった(http://bizmakoto.jp/makoto/articles/0711/30/news149.html)のは痛かったと思います。発行枚数の累積は、さすがにまだEdyがトップなんですが。

神尾 ポイント/マイルの面でEdyの優位性が減少したのは、例の貸金業法改正の動きなども影響しているわけですが、こういった流れが、Edyの一極集中を相対的に抑制していくのでしょうね。

吉岡 EdyはFeliCa決済としては最古参ですが、利用件数ではnanacoに抜かれてしまったし、Suicaとは毎月競っている状態です(参照:FeliCa決済最新利用状況)。Edyが苦戦しているというよりは、nanacoの伸びがすごすぎるのかもしれませんが。

神尾 Edyは今後、他社のポイント/マイルに頼らない実力・魅力をつけないといけないでしょうね。SuicaやPASMO、nanaco、iDには、それがあるわけですから。

モバイルSuicaの便利さ、お得さが知られていない

――Suica、nanacoは成功しているといえますか?

神尾 Suicaは成功しているでしょうね。モバイルSuicaはまだ苦戦していますけど。nanacoは、第1段階は成功しましたね。だけど次のステップが課題です。

吉岡 SuicaやPASMOは、割引がまったくないにもかかわらず、文句はほとんど聞かれませんよね。首都圏以外では割引システムを組み込んでいるものも多いのですが。SuicaとPASMOは相互乗り入れができるし、加えて電子マネーとしても使えるから、それでほぼみんな満足しています。

神尾 Suicaに関しては、東京圏だと利便性の方が重視されるんでしょうねぇ。でも確かに便利なんですよ(笑)。

――駅の周りやコンビニで使えて便利というように、ユーザーの満足度が高いのが勝因だということですね。

神尾 あとモバイルSuicaとVIEWカードの組み合わせだと、ポイントの付与率もいいし、すごくお得です。確かにSuicaそのものに割引はありませんが、モバイルSuica+VIEWカードならば、間接的な「お得さ」はあります。

――モバイルSuicaには、不正利用の問題がありましたが(参照記事)

吉岡 モバイルSuicaは、利用者数がJR東日本の期待していたレベルに達していないうちに、不正利用の話が出てしまったのは痛いですね。

神尾 モバイルSuicaはいいサービスなんですけど、ローンチやプロモーションで失敗していますよね。はっきりいえば、マーケティングが弱い。来年は各種割引や新幹線対応も進むので、マーケティングをもっとしっかりやれば普及に弾みがつくと思うんですけど。

 あと、不正利用については報道のされ方に問題がありましたよ。あれはJR東日本も被害者なわけですから。

吉岡 不正利用の問題は、あくまでクレジットカードの不正利用なんですけどね(参照記事)。Suicaのセキュリティに問題があったように受け取った人もいました。こんなことでSuicaに対するイメージが悪くならないといいんですけど。

――モバイルSuicaに限らず、おサイフケータイの利用はあまり進んでいないという印象ですが。

吉岡 初期設定や機種変更時の移行が難しすぎますよねえ。

神尾 モバイルSuicaの移行は簡単じゃないですか? ICアプリの中では簡単な部類だと思いますよ。ただ、ドコモの「iCお引っこしサービス」に対応してないのは痛いですが。

吉岡 おサイフケータイ全般として、どの機種も設定・移行はやっぱり難しいでしょう。設定さえしてしまえば、使うのは“かざすだけ”で非常に簡単なだけに、余計気になるんですよ。機種変更のときに電話帳がそのまま移行できるように、FeliCaサービスもそのまま移行できないと、広く普及するのは厳しいんじゃないでしょうか。誠でも「おサイフケータイの基礎知識」という記事を掲載しましたが、あの記事でもアプリをどう移行するかという話にはかなり行数を割いています。

――あの記事はページビューものびて、みなさん、おサイフケータイに興味はあるんだろうと思いました。でも、実際に使っている人はまだまだ少ないという印象です。

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