著者プロフィール:藤田正美
「ニューズウィーク日本版」元編集長。 東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”」
サブプライム・ショックの波紋がどこまで広がるのか見通しがつかないままに2007年は終わったためか、2008年は大荒れで始まった。原油相場は史上初めて1バレル100ドルを突破した。ニューヨーク証券取引所のダウ30種工業株平均は急落し、1月4日には前週末比で565ドルも下げている。
日本の株式相場も動揺している。1月4日の初日には日経平均株価が600円以上も下げ、年末からの下げ基調が加速された形となった。また通貨では、円高に大きく振れている。東京が休みだった間に海外が円高になっていたこともあって、東京市場の初日は米ドルに対して実に4円近くも円高となった。円高は「企業業績悪化」という連想を生み、株安の下押し材料となる。
しかし円高というよりは、ドルの全面安というほうが正確である。サブプライム・ショックで信用収縮が生じ、その影響が実体経済にどの程度の影響を与えるかということに市場は敏感になっている。そしてクリスマス商戦が思ったほどではなかったこと、12月の雇用の増加が予想を大幅に下回った上、失業率が0.3ポイント上昇し5%に達したことなどから、「米国が景気後退に入る確率が高まった」と判断する向きが増えたということだ。
このため米国の政策当局は、追加的な景気対策を打ち出した。FRB(米連邦準備理事会)は金融市場へ新たな資金供給をすると発表したほか、1月29日、30日に開かれるFOMC(米連邦公開市場委員会)ではFF(フェデラルファンド)金利の引き下げに踏み切ると見られている。引き下げ幅は0.25か0.5ポイントだろうが、小幅すぎればさらに市場は悪化する懸念もあり、FRBが景気の先行きをどう読むかが焦点だ。
株や通貨の乱高下、商品とりわけ石油や金の高騰といった混乱がどうなるか、その鍵を握るのは米国の景気に裏打ちされたドルの行方である。景気が悪化するという見方が強まれば、ドルが売られる。それは今までも同じことだが、少し様相が違うのは、基軸通貨としてのドルの地位が揺らいでいることだ。
イランのアハマディネジャド大統領がOPEC(石油輸出国機構)の総会で、ドル安への不満を表明し、「ドルは紙くずにすぎない」と発言した。これは極端であるとしても、ドルへの信認が揺らいでいると同時に、ドルに代わる有力な通貨としてユーロの地位が上がっていることは間違いない。中国やロシアなど多額の外貨準備を保有する国は、「すでに外貨準備を多様化する」としている。米国の景気が悪化していることと、ドル資産からの「逃避」がドル安を加速するという構造は基本的に変わらないのかもしれない。
構造的変化に伴うドル安に日本がどのように対処するのか。これは難しい問題である。もともと日本は米国の一極支配構造に順応した体制を取ってきた。日本やアジアを生産基地とし、米国へ輸出するという構造である。その形にこだわってきたことで、例えば日本への外資の誘致などでは欧米に大きく遅れを取っている。それが日本の経済力を弱めている。
そのような日本経済の脆弱性をどう克服していくのか、政治が大きなビジョンを描かなければならない時期に差し掛かっているように思う。しかしタイミングは最悪だ。日本の政治は、いままったく身動きのとれない状態になっているからである。それが日本の将来にどの程度大きな禍根を残すことになるか、それが今年最大の気懸かりである。
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