米国の大統領選挙は、序盤戦のヤマ場であるスーパーチューズデイ(2月5日)に向け、ヒートアップしている。緒戦のアイオワで民主党はオバマ候補、共和党はハッカビー候補が勝った。民主党では全国的には支持率断トツだったヒラリー・クリントンが「惨敗」したことが意外と受け止められている。第2戦のニューハンプシャーではヒラリーが雪辱したが、オバマは僅差でヒラリーを追っている。
昨年まで、この大統領選挙のいちばんの争点といえばイラク戦争だった。開戦には賛成したヒラリーと一貫して反対してきたオバマ、2人はどちらも早期撤退を訴えている。しかしサブプライム・ショックがいっこうに収まらず、クリスマス商戦や12月の失業率上昇など、実体経済への波及が懸念されるに及んで、消費者の関心は米国の景気に移ってきている。いくつかの世論調査でそれは明らかだ。
マクロ的には、景気が後退するのかどうか、そこが焦点となっている。景気後退とは2四半期連続のマイナス成長を指す。いまのところ今年前半はマイナス成長となる懸念が強まっている。このためブッシュ大統領は、1月28日の一般教書演説にさきがけて18日金曜日に景気対策の骨子を発表した。総額1500億ドル、消費者への戻し税を中心とする景気対策だったが、株式市場の反応はいまひとつ芳しくない。ドル安によるインフレ圧力の高まりをにらみつつ、FRB(米連邦準備理事会)のバーナンキ議長は、1月30日に開かれるFOMC(米公開市場委員会)での大幅利下げを示唆している。この利下げ幅は0.5ポイントか0.75ポイントということになるだろうが、市場がどう反応するかは予断を許さない。
なかなか市場がポジティブに反応しないのは、サブプライム・ショックがいわば「深化」しつつあるからだ。
メリル・リンチが発表した10〜12月期決算では、サブプライム・ローン関連証券の追加評価損115億ドルが響き、とうとう2007年通期でも赤字に転落した。巨額の赤字を出しているシティグループやメリル・リンチは、政府系ファンドなどからの巨額の出資を受け入れて何とか局面の打開を図ろうとしているが、トンネルの出口はまだ見えない。
さらに、これまであまり表舞台に出たことのない、金融保証会社の業績悪化が表面化している。債券保証会社は2.4兆ドルほどの債券を保証しているが、もしこれらの保証会社のうちどれかでも行き詰まると、金融界に与える影響は計り知れないという。
1月16日、金融保証会社の大手であるアムバックは、35億ドルを償却すると発表した(CEOもクビにしている)。このうち11億ドルがサブプライム・ショックの主役となったCDO(債務担保証券)である。そして18日には、10億ドルの資本を調達する計画を中止すると発表した。トリプルAの格付けを維持するための資本増強計画だったのに、株価急落によって中止を余儀なくされたのだ。
これらの金融保証会社は、保証料を受け取って、債務不履行などが生じた場合、予定通りに元利支払いをするのが業務である。その意味では、サブプライム・ローンなどを原資産とするCDOにトリプルAの格付けを「貸して」いたわけだ。だから保証会社の格付けが下がると、新たに債券を引き受けることが不可能になる上、すでに引き受けた債券の評価が下がる。これが現在のサブプライム・ショックを加速することにつながると懸念されているのである。
大統領選挙の年は景気は悪くならないというのがこれまでの通例だが、今年はどうもそうは行きそうにない。最悪の場合、年間でもマイナス成長がありうるとする専門家もいる。そうなったら、ドルはますます下がり、米国のインフレ圧力は高まる。昔懐かしいスタグフレーション(景気低迷下のインフレ)がまた起こる可能性もあるという。
現在の段階では、大統領選の予備選挙に出馬している各候補ともそれほど経済政策を語っているわけではない。しかし少なくとも今後の予備選の中では、経済について語れないと生き残りが難しいかもしれない。
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