「為替リスク」の恐ろしさを、身をもって体験中ロサンゼルスMBA留学日記

» 2008年02月25日 10時02分 公開
[新崎幸夫,Business Media 誠]

著者プロフィール:新崎幸夫

南カリフォルニア大学のMBA(ビジネススクール)在学中。映像関連の新興Webメディアに興味をもち、映画産業の本場・ロサンゼルスでメディアビジネスを学ぶ。専門分野はモバイル・ブロードバンドだが、著作権や通信行政など複数のテーマを幅広く取材する。


 本連載の第1回でも触れたが、MBAの学費は高い。2年間の学費だけで6万〜8万ドル(1ドル=107円換算で約640万円〜850万円)かかる上に、留学生となると海外の生活費としてさらに数百万円必要になるため、1000万円以上の資金が必要となる。そのため、金策に奔走する学生も多い。

 一番てっとり早いのは、バイトをすることだ。しかしMBAの授業では、膨大な宿題を課してくる上にグループ単位でレポートを提出する「グループワーク」も多い。仲間とのスケジュール調整を考えると、バイトにそうそう時間を割くことはできない。そうなると、どうやったら働かずに、少しでもお金を増やせるか? という話になる。

米国は、ゼロ金利ではなかった

 注目すべきは、日米の金利の違いだ。ご存知のとおり、日本ではゼロ金利政策によって金利がタダみたいな低水準で推移している。2006年にゼロ金利は解除されたとはいえ、依然として今も金利は低い。

 ファイナンスの世界では、「リスクフリーレート」という言葉がある。リスクゼロの場合、どれだけの金利が設定されるべきかという概念だが、普通はその国の10年物長期国債などを指標とすることが多い(国債は一般にリスクゼロの投資案件とみなされる)。そして日本の10年物長期国債は現在、1.5%程度。一方の米国はというと、4%前後で推移している。つまり、リスクフリーレートにしてから、日米間では2倍以上違うのだ(イールドカーブなどの詳細については、Bloomebergのサイトを参照)。

 米国の銀行では、CD(Certificate of deposit)という定期預金を勧めてくることもある。CDの詳細説明はWikipediaなどに譲るが、要はプロの投資家でなくても一般市民が十分手を出せるほど、リスクを下げてある定期預金のことだ。そしてこの金利も、なかなか高い。

 金融商品によって違いがあるので一概に何%というのは難しいが、1年ものの定期預金で3〜4%の金利が付いたりする。金利といえば1%以下という世界に慣れてしまった日本人にとって、4%の金利というのはなんとも驚くべきものがある。虎の子の500万円を貯金したら、1年で20万円の利息が付くわけだ。

 筆者の身の回りでも「CDで儲けた気分になった」と語る人間がちらほらいる。ある学生は金利の高さに驚き、親に「融通できるだけのお金を送金してくれないか」と連絡したという。いい投資案件があるから、こちらで運用してあげる、というわけだ。

為替変動の激しさが厳しい

 だがこうした努力を吹っ飛ばすようなファクターが、もう1つあった。為替である。ご存知のとおりドルと円の関係は、ここ数年1ドル100円〜120円ぐらいで変動してきた。円高のときにドルを買って、円安のときに円に買い戻せば儲かる。そう頭で分かっていても、実際に自分のお金を動かすとなるとタイミングの悪さにがくぜんとする。

 具体的にいうと、2007年の7月頃の為替水準は、1ドル120円を超えていた(つまり残念ながら円が弱かった)。しかし一般にMBAの留学生は春先に合格通知を受け取るから、入学までの6〜7月のタイミングで円をドルに替え、ある程度の学費を振り込む必要がある(学校によるかもしれないが、USC=南カリフォルニア大学の場合は最初に半年分の学費を振り込む)。生活費を送金したりする必要もあるので、この時点ですでに300万〜400万円といったお金が必要になっている。

 ところがサブプライムローン問題の影響などで、年末年始はドルが非常に下がった。つまり円高になったということで、1ドル105円程度までいった(現在は107〜8円)。夏場に送金してしまった留学生にすれば「このタイミングで400万円をドルに替えたかった!」と嘆くところだ。

 しかも悲しいことに、MBA留学生は決まったタイミングで学費を振り込まなければならない。円高のタイミングでのみドルを買えれば“うまい話”にもなるのだが、機会をうかがっているうちに次の支払いのタイミングが来てしまう。そういう意味では、一番の大金を海外送金する可能性が高い7月に1年間で最もドル高の水準だった2007年入学のMBA留学生は、極めて不幸だったといえるだろう。

最もハイリスク・ハイリターンなのは……

 ここまでいろいろ書いてきたが、MBA留学生にとってこれらを大逆転できるチャンスもある。それは何か?

 簡単な話で、「よい就職」をしてしまえばいいのだ。MBAホルダーは、MBAの学位が評価される企業にいけば、給料が前の職場と比べて倍になることも少なくない。給料が倍になったら、数十万円損したからといって目くじらを立てる必要もないだろう。だからこそ、多くの学生は1000万円を超える投資(学費を支払う)をするわけだ。MBA自体が、いわば“ハイリスク・ハイリターン”の投資案件、といえなくもない。

 だが難しいもので、卒業のタイミングで景気が悪いと就職氷河期にぶつかったりする。こうなると目も当てられない。以前、「サブプライムローン問題がMBAの学生たちを悩ませる事情」という記事にも書いたが、やはり金融業界の就職事情は確実に悪化していると聞く。どうやら人生、なにごとも運、不運が付きものだ。「投資にはリスクが付きもの」と理解した上で、それでも何が最善なのかあれこれ模索するしかない。

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