“本物”の温泉とは?――ポスト秘湯ブームの今、満足できる温泉に出会う法嶋田淑之の「この人に逢いたい!」番外編(4/4 ページ)

» 2008年05月17日 00時00分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]
前のページへ 1|2|3|4       

結局、どんな温泉地・温泉宿なら良いのか?

 最終的にはその人が何を重要と考えるか。そのプライオリティ次第で、温泉地・温泉宿の選び方も変わってくる。温泉偽装発覚の全国的波及の翌年、温泉法は改正され、湯船における濾過循環・加温・加水・入浴剤投入・消毒薬投入の有無に関して、各温泉宿に掲示義務を課した。

 ところがこれらの情報は、各旅館の浴場には掲示されても、それ以外では集客に影響すると考えてか、あまり目立つ形では表に出さないようにしている宿が多い。源泉かけ流しを強調する宿は見かけるが、果たしてそこが加温・加水・塩素注入をしているのか、ということについては、旅行会社の温泉ツアーのチラシを見ても書いていないし、その温泉宿のWebサイトを見ても、見いだしにくい場合が多い。ましてや、「私どものところでは、濾過循環方式を採用しております」などということを積極的に告知しているところを発見することなど、まず不可能である。

 時代の要請はホンモノ、製造物責任、情報公開である。高級料亭の「船場吉兆」で長年にわたり客に残飯を食べさせていたことが発覚するなど、日本の生活者は、今や企業行動に関して何を信じたらよいのか分からない状態に置かれている。それならばこそ「そこまでしなくても」と思うくらいの思い切った自己開示が必要なのではないだろうか?

 ところが現実には、すでに述べたように、偽装はしない代わりに、隠蔽しているように見えるケースもある。従って実態は分かりにくいし、みんな戸惑うわけである。温泉地や温泉宿に興味を抱き、それなりのお金を払って行ってみようと思うならば、「自分として、このファクターだけは譲れない」という点を明確にすることが何よりも大切だ。

 「とにかく、最高ランクの米沢牛のすき焼きが食べられる温泉宿に行きたい」という人もいるだろうし、「目の前一面に海が広がる露天風呂に入れればよい」という人もいるだろう。もちろん「源泉かけ流しで、加温・加水・塩素注入していないところが絶対の条件」という人もいるだろう。いずれにしても、現在の自分自身のニーズをしっかりと自覚することである。その上でせめて、それについてだけは、たとえ面倒でもネットで丹念に調べるなり、直接、宿に電話して確認するしかあるまい。


 筆者の場合は、源泉かけ流しを基本にしつつ、間接的な湯温調節や塩素注入には目をつぶるようにしている。その代わり、4つのファクターは絶対譲らないようにして、その時その時のニーズに応じて行き先を使い分けたいと考えている。

 何を重視し、何にお金を払うかは各人の価値観の反映であり、こればかりは、自分で決めるしかない。しかし自分なりの明確な基準に沿って納得のゆく選択をするならば、その温泉地や温泉宿はきっと素晴らしい休日を提供してくれることだろう。

 日本古来の文化としての温泉(温泉地、温泉宿)には、それだけの魅力が今なお存在するのである。

嶋田淑之(しまだ ひでゆき)

1956年福岡県生まれ、東京大学文学部卒。大手電機メーカー、経営コンサルティング会社勤務を経て、現在は自由が丘産能短大・講師、文筆家、戦略経営協会・理事・事務局長。企業の「経営革新」、ビジネスパーソンの「自己革新」を主要なテーマに、戦略経営の視点から、フジサンケイビジネスアイ、毎日コミュニケーションズなどに連載記事を執筆中。主要著書として、「Google なぜグーグルは創業6年で世界企業になったのか」「43の図表でわかる戦略経営」「ヤマハ発動機の経営革新」などがある。趣味は、クラシック音楽、美術、スキー、ハワイぶらぶら旅など。


前のページへ 1|2|3|4       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.