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» 2008年06月13日 13時44分 UPDATE

神尾寿の時事日想・特別編:黒船どころではない、津波だ――iPhone、驚異のビジネスモデル (2/2)

[神尾寿,Business Media 誠]
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iPhone 3Gは「高品質なカローラ」――販売価格とコスト構造に着目する

 発売日以外にも、iPhone 3Gには大きな注目ポイントがある。販売価格とコストの構造と、ビジネスモデルだ。

 まず、販売価格とコストの部分を見てみよう。

 iPhone 3Gの米国での販売価格は、通信キャリアとの2年契約時で16Gバイト版が299ドル、8Gバイト版が199ドルだ。AppleはiPhone 3G以降、通信料の一部を通信キャリアから受け取るレベニューシェアモデルを撤廃しており、その代わりに通信キャリアはiPhone 3Gにインセンティブ(販売奨励金)を出して、端末の販売価格を安く抑える仕組みになっている。これによりiPhone 3Gは“現在のiPod上位機種よりも安い価格で売られる”ことになる。日本での販売モデルや販売価格はまだ決まっていないが、ソフトバンクモバイルのある幹部は「孫社長の性格や(iPhone 3Gへの)想いの強さを考えれば、日本での報道で(北米での販売価格である)199ドルと299ドルが広まった以上、ユーザーの期待を裏切るような値付けはしないだろう」と話す。iPhone 3Gについては“ユーザーの期待を裏切らない”形で特例的な取り扱いや価格設定が行われる可能性があり、そこでの価格はやはり日本メーカー製のハイエンドモデルや、iPod上位機種と比べても、かなりお得感のあるプライスタグになりそうだ。

 さらにiPhone 3G自体が、かなり“安く売れる”コスト構造になっている。筆者は実機を分解していないので断定はできないが、報道発表資料や取材を通じて得た情報を総合すると、iPhone 3Gのハードウェアは当初から「低コスト化」と「グローバル展開」を徹底した構成になっているようだ。3GやGPSなど新たに搭載された部分はすべてグローバルで利用できて低価格化が進んだ“枯れたデバイス”であり、タッチパネル液晶や無線LAN、Bluetoothなどは先代iPhoneやiPod touchからの流用や共有されている可能性が高い。iPhone 3Gの革新のほとんどは、ソフトウェアとクラウド型の新たなネットサービス「MobileMe」、そして優れたデザインとブランドによるものであり、ハードウェア自体の構成はシンプルかつ量産効果が出やすいものになっている。

 しかも、“売り方”が半端ではない。iPhone 3Gは色違いも含めて3モデルしかなく、メモリー容量以外はすべて同じ構成だ。それを世界70カ国で販売し、言語や地域性の違いはソフトウェアとタッチパネルUIで吸収。1000万台以上の販売を目指す。日本の携帯電話と比べて販売期間も長く設定され、おそらく1年は売られ続けるだろう。その間にもソフトウェアのアップデートや、新たに用意されたアプリケーション追加スキーム「App Store」によって、“中身の新鮮さ”は失われない。

 シンプルなハードウェア構成とラインアップで大量生産し、それによる量産効果を見越して、大容量メモリの搭載やデザイン・質感の高級化を進める。さらに通信キャリアのインセンティブも活用することで、iPhone 3Gは「高品質なものを安く作り、安く売る」ことが可能になっている。より多くの人に、いいものを届ける。これを実現する仕組みや発想は、トヨタの「カローラ」に近いものがある。

ゲーム機とも既存のケータイとも異なるビジネスモデル

 iPhone 3Gのビジネスモデルもまた秀逸だ。

 AppleはiPhone 3Gの投入にあたり、iPhone上で実用系からゲームなどエンタテイメント系まで様々なアプリを供給・流通させるプラットホーム「App Store」を構築。ここでの手数料として販売価格の30%を得るというビジネスモデルを構築した。

 さらに従来どおり音楽や映像コンテンツを流通させる「iTunes Store」のスキームもあり、こちらでもAppleは販売手数料を手にすることができる。iPhone 3Gは、どう控えめに見積もっても世界的なメガヒット商品になるのは確実であり、その上に広がるコンテンツ流通のプラットホームから、Appleは継続的に収益を上げ続けられるのだ。

 このようなビジネスモデルは、ゲーム機本体を製造原価より安く売り、その後のゲームソフト販売のロイヤリティで儲けるゲーム機メーカーのビジネスモデルに似ている部分がある。しかし、ゲーム機のビジネスモデルとiPhone 3Gのビジネスモデルが決定的に異なるのは、iPhone 3Gの値下げ原資は通信キャリアのインセンティブが主に充てられており、さらにiPhone 3G自体が当初から低コスト化が実現しているため“端末販売でも利益が上がる”点だ。このようにiPhone 3Gは、Appleにとって「2度おいしい」存在になっている。

PhotoPhotoPhoto ホーム画面はiPhoneとほぼ同じ。新たにApp Storeが追加されている点が目を引く。文字入力は、iPod touchに搭載されていたQWERTYキーボードを使うものだけでなく、テンキー方式のものも用意されるようだ。マップはGPSと無線LANアクセスポイント、携帯電話基地局情報から位置情報を取得できる

日本メーカーはiPhone 3Gの津波に押し流される

 iPhone 3Gの発表以降、筆者はほとんど寝る間もなく情報収集を行っている。そしてiPhone 3Gについて知れば知るほど、魅力的なプロダクトの裏にある販売戦略やコスト構造、ビジネスモデルのすさまじさに圧倒されそうになる。iPhone 3Gの日本上陸は、黒船どころの騒ぎではない。いうなれば津波のような存在だ。

 日本の携帯電話メーカーは、iPhone 3G、そしてAppleの作り出す巨大なエコシステムに太刀打ちできるのだろうか。筆者は、今のままでは不可能だと考える。市場の反応速度という要素はあるが、日本メーカーのビジネスモデルは、iPhone 3Gという津波の前ではちっぽけな木造家屋ほどの存在でしかない。このままでははるか遠くに押し流されるのは、時間の問題である。

 日本の携帯電話メーカー、そしてモバイル産業全体が、古い価値観や慣習を捨てて、新たな時代に適応する時期に来ている。iPhone 3Gという津波を乗りこなすくらいの気構えがなければ、古いビジネスモデルごと波に飲み込まれるだけである。

 →HSDPA対応の「iPhone 3G」、7月11日発売

 →携帯電話からコンテンツプレーヤーへ脱皮した「iPhone」

 →ソフトバンクモバイル、年内に「iPhone」を発売

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