決算書の知識がほとんどない状態だったヒロシですが、業種によって費用構造が異なることや、決算書に頼らなくても企業の経営状況を把握する手段があることなどを理解することができ、この分野に対するアレルギーが薄らいできました。
一方で、資産の効率活用の重要性や、企業は黒字を出すだけではダメで、資金調達コストを上回る収益をあげる必要があるということも学びました。今まで考えてもみなかったことですが、急に「うちの会社はどういう資金調達を行っているのだろう」と興味も湧いてきました。そして、ハードルレートの設定は、この資金調達コストと密接につながりがあることもなんとなく見えてきました。
「先輩、今までは売上と費用ばかりに目を向けていましたが、資金調達コストを低くすることが効率的に稼ぐために重要なんですね」
「うん、資金調達コスト、すなわち資本コストだな。これが低くなれば企業価値は高くなるからね」
「資本コスト? 企業価値?」
そういえば、新聞では「企業価値の最大化」なんて言葉がよく使われています。わかったようでわからなかった「企業価値」の概念ですが、どうやら資金調達コストと関連性があるようです。
まだまだ全体像はもやもやとしていますが、ヒロシの中でコーポレート・ファイナンスの全体像を形作るパズルが1つひとつ見えてきました。
今回は企業の資金調達戦略とそれがハードルレートに与えるインパクトを見ていき、そして資金調達戦略が企業価値に与える影響についても触れます。
今回は、まず前回で出てきたハードルレートのお話を別の観点からしてみましょう。もしハードルレートの話がいまいちピンと来なかった方も、こちらで理解していただければ大丈夫です。
企業にとって、次々と新規事業を立ち上げることは成長性の維持のために非常に重要なことです。しかし、同時に新規事業には失敗のリスクも大きいので、そうやすやすとは始められません。
新規事業を始めるにはまずアイデアが必要です。そして次にどうやって収益化していくか、という事業プランを立てます。そこでは、「事業を軌道に乗せるまでにいくらのお金が必要か」という資金計画も必要です。通常、事業は立ち上がってから収益が黒字化するまでしばらく時間がかかります。事業から発生する資金量は「逆Jカーブ」を描きます。当初はカーブのマイナス期間を乗り切るだけの現金が必要になります。
さらに、当初予想していたようなキレイな逆Jカーブを描く新規事業というのはほとんど存在しません。「想像以上にお金が必要だった」「カーブの上昇率が思っていたほどではない」など苦戦することも多々あります。そんなとき、事業には想定していた以上のお金が必要となりますが、追加投資を行ったところで収益が改善するという保証もありません。場合によっては新規事業に見切りをつけて、穴を大きくしないように勇気ある撤退をすることも必要です。
他方で、自社が撤退した後に競合サービスがぐんと伸びた、つまり事業撤退のタイミングが早すぎた、という場合もあります。
この「事業撤退の決断」は事業を行う上で最も迷うものであると同時に、ひとたびタイミングを間違えば会社に与える影響は甚大になります。
会社の全社的な利益率が5%ほどの企業において、新規事業は黒字化したものの利益率は1%未満、という状態が続いているとしたらどうでしょう? その事業が存在することによって全社的な利益率が押し下げられることになります。
また利害関係者からは「銀行からの借入金の利息が3%かかっているんだから、1%しか事業利益を生まないなら表面上は黒字でも実際は赤字だよ」という指摘も入ることでしょう。
「この事業からどの程度の利益を出すべきであり、どういう状況なら撤退すべきか」を考えるのが重要な一方で、「事業に必要なお金をとにかくローコストで調達する」ということも同じく重要になります。
企業の資金調達手法は銀行からの借入だけではありません。株式を発行することでもお金を調達しています。詳しくは後述しますが、株式での資金調達にもコストがかかっています。
そこで、ここからは会社の資金調達について見て行きます。
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