ニンテンドーDSiに隠された戦略とは?それゆけ!カナモリさん(3/3 ページ)

» 2008年10月21日 06時55分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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10月9日 トヨタ「レクサス・ハイブリッド戦略」の期待効果

 トヨタはレクサスの全車種にハイブリッドを搭載するという。現状の搭載比率約10%から一気に加速するわけだ。日本経済新聞(以下、日経新聞)10月9日付け朝刊の記事「トヨタ『レクサス』、ハイブリッド、全車種に設定」によると、独メルセデス・ベンツなど海外高級車メーカーに対抗するためとしているが、その狙いはどこにあるのだろうか。

 確かにメルセデスはトヨタのニッケル水素バッテリーを技術的に上回るとされる、リチウムイオンバッテリーによるハイブリッドを搭載したSクラスを先月発表している(参考記事: Respose「メルセデスベンツ Sクラス にハイブリッド――12.6km/リットル」)。「環境にはディーゼルの方が優れている」と主張し続けてきたメルセデスが、プリウス発売以来10年目にして始めて真っ向勝負を挑んできたのだといえる。

 対するトヨタの思惑はどこにあるのか推察してみよう。日経新聞の記事では、ハイブリッド戦略の狙いについて、米金融危機などを背景に世界で高級車販売が落ち込んでいるため、売り物のハイブリッド技術を活用して販売拡大を目指す、としている。

 米金融危機などを背景に世界で高級車販売が落ち込んでいるためを解釈するなら、高級車を購入できる富裕層はますます限定されてくるということを予想してのことだろう。

 その点はメルセデスも同様の認識なのではないだろうか。その限られた層の「こだわり」にいかに応えるかが勝負の分かれ目となるのだ。

 富裕層の関心は、燃費効率もさることながら、資産的な余力があるため環境負荷軽減という観点は強い。しかし自らの快適性は失いたくない。環境負荷軽減を重視するなら小型車に乗ればいいが、大型車の快適性は失いたくない。そんなユーザー心理を洞察して、メルセデスはSクラスをハイブリッド対決の戦場としてきたのだろう。

 対するトヨタは、もう一歩先を行く戦略なのだろう。米国におけるプリウスの購買理由は「経済性」より、「環境負荷軽減」に重きが置かれていた。「環境のことを考える人が賢く選択するクールな車」というポジションを獲得していたのだ。トヨタはここ10年来「エコ」を大きく掲げてきた。車という環境負荷を高める商品を作っているが、その軽減のために注力するという姿勢だ。このポジショニングの明確化の意義は大きい。

 かつて、米国ビッグ3がここまで凋落する前に、現代マーケティングの第一人者、フィリップ・コトラーが自動車会社のポジショニングについて、著書『コトラーのマーケティングコンセプト』(東洋経済新報社)の中でこう指摘している。

 「地上最強のドライビングマシン」(BMW)、「世界一安全な車」(ボルボ)など、欧州のプレミアムカーはポジショニングが極めて明確であるのに対し、米国勢はオールラインアップの弊害で、ポジショニングがあいまいになってしまっている。その結果、消費者に魅力が伝わらなくなっているということだ。

 オールラインアップメーカーといえば、トヨタも同じである。エコに舵を切る前のトヨタのイメージとは何だっただろうか。「経済的なコンパクトカーメーカー」だろうか。しかし、それはもはや実態を示していないし、消費者に魅力的にも映らないだろう。

 「エコ」はトヨタのブランド戦略の要諦だ。フラッグシップであるレクサス全車がハイブリッドを搭載するということは、「トヨタ=エコ」というブランド強化を図るという大きな効果も期待できると考えられるのである。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道18年。コンサ ルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。

「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディ アへの出演多数。 一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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