アート化したマスキングテープに学ぶ“ピープルモデル”郷好文の“うふふ”マーケティング(1/2 ページ)

» 2009年02月05日 07時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

著者プロフィール:郷 好文

マーケティング・リサーチ、新規事業の企画・開発・実行、海外駐在を経て、1999年より2008年9月までコンサルティングファームにてマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略、業務プロセス改革など多数のプロジェクトに参画。 2008年10月1日より独立。コンサルタント、エッセイストの顔に加えて、クリエイター支援事業 の『くらしクリエイティブ "utte"(うって)』事業の立ち上げに参画。3つの顔、どれが前輪なのかさえ分からぬまま、三輪車でヨチヨチし始めた。著書に「ナレッジ・ダイナミクス」(工業調査会)、「21世紀の医療経営」(薬事日報社)、「顧客視点の成長シナリオ」(ファーストプレス)など。中小企業診断士。ブログ→「マーケティング・ブレイン」


 「似ているビジネスモデルが思い当たらない」

 前回連載で取り上げた“アート用”マスキングテープ「mt」カモ井加工紙さんのオフィスでインタビューしながらそう考えていた。

 マスキングテープという工業用途製品がなぜこれほどまで支持されるのか、なぜこれほどまで自由なのか。その理由を類似の事例でひも解こうとしても、アタマの中に似たビジネスモデルが思い浮かばないのだ。

 色とりどりのマスキングテープをちぎって貼り、ちぎって貼る。これだけのことなのに不思議と楽しい。つい、Business Media誠編集長宛の原稿料請求書封筒にも使用してしまった。

類似事例を探してみよう

 マスキングテープは「プロダクトアウト※でもなく、マーケットイン※※でもない」と前回の連載で書いた。本当にそうなのか、似た事例を視点を変えて探してみよう。

※プロダクトアウト……メーカーの技術・開発からの商品化。
※※マーケットイン……消費者調査からのニーズ発掘。

建設ネットバッグ

 「建設ネットバッグ」は、プロダクトデザイナー深澤直人氏のエスプリが利いている。建築現場で使われる目隠し用の仮囲いネットをバッグに使用しているのだ。工業用素材をお散歩バッグのファッションに持ち込んだことで、そこには型にはまった思考を壊す表現の自由がある。しかし、工業用素材の他用途展開という点では似ているが、ユーザーに「デザインお任せの自由」を与えたわけではない。

建設ネットバッグ

ねじキューピー

 東京都・虎ノ門の三和鋲螺(さんわびょうら)が作る「ねじキューピー」。いまだ愛好者が商品を求めて列をなす。「ねじ」という工業用途バリバリの部材を“かわいくしちゃった”意外性がウケた。ネットで売らず店頭販売のみという手作り感覚もいい。しかしこれも工業用途からの転換という点では似ているが、やはりユーザーがねじでキューピーやエンジェルを作るまでには至っていない。

ねじキューピー

ラフィア

 「ラフィア」とは包装やデコレーション用のひも素材。マダガスカル原産の「ラフィア椰子(やし)」の葉の繊維を加工したもので、イシイクラフトの「佐原ラフィア」には心地良い色がたくさんある。ナチュラルな色と素材感が、花を結わいたりリースを作ったりと創造性をかき立てる点でマスキングテープと同じだ。だが、用途の劇的な転換という点ではまだ及ばない。

ラフィア

OpenOffice.org

 「OpenOffice.org」とはフリーのオフィススイート・ソフトウエア。ver.3.0はMac版でも安定度が増したので私も使用している。元締め企業(米サン・マイクロシステムズ)の存在、コアユーザーも参加して開発の中核を担っている点でmtの開発物語とよく似ている。だがmtは、開発者以外のユーザーが“表現者として主役”になるのでちょっと違う。

OpenOffice.org

 似ているビジネスモデルはいくつかあるものの、“どんぴしゃ”はない。「私だけのデザイン」「私もやりたい」、こんな欲求をつかんで広がってきたmtの特徴をもう一度整理してみよう。

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