アート化したマスキングテープに学ぶ“ピープルモデル”郷好文の“うふふ”マーケティング(2/2 ページ)

» 2009年02月05日 07時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]
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用途も開発もユーザーの自由に

 カモ井加工紙がmt開発をするきっかけはコアユーザーからの提案。彼女たちがマスキングテープにほれて、「自分の表現にこだわりたい」「創造性を発揮したい」と思ったことが原点だ。用途開拓の提案をしたわけではなく、「こうしたら楽しい!」と言っただけ。きっかけは自然発生的で無垢(むく)なものだった。

 そこで、mtの供給者(カモ井加工紙)はどうしたか。「余計なおせっかいはやめよう」「任せよう」という態度をとった。素材だけの提供に徹して、作り方の提案やコミュニティ作りはやらない。供給者の存在をできるだけ排除しようとした。代わりにテープの色、柄、幅といった素材のバラエティを提供した。ユーザーの選択肢と自由度をもっと増やすことに徹したのだ。

 「おせっかいの排除」「お任せ」「自由度」、そんなキーワードを集約してポジショニング図を作った。タテ軸は「供給者がコントロールするか/ユーザーに任せるか」、ヨコ軸は「元の用途か/違う用途か」。

 OpenOffice.orgは、開発者組織と供給者が主役で元の用途だから左下。建設ネットバッグとねじキューピーは、デザイナーによる工業用途の感性提案なので右下。ラフィアはユーザー任せの素材だが、元の用途からのはみ出しは少ないので左上。mtは合理用途から感性用途へ踏み出し、製作も使用もすべてユーザー任せにした希有な存在と言える。

 これでmtの成功、かなり説明はついた。でも、まだむずがゆい。どこか教科書じみていて、何かが足りない気がする。

ビジネスモデルから“ピープルモデル”へ

 “まだ足りない”時には原点に返り、じっと対象を見つめるに限る。そこでmtを愛機のMacに貼ってみた。パームレスト部分にぺたぺた貼った。案外良い感じだ。

 すると気付きがあった! マスキングテープは「真っ直ぐ切れないのが魅力」なのだ。セロハンテープやPPテープはテープカッターで真っ直ぐに切れる(ギザギザですが)。テープは直線で切れるのが当たり前だと思っていたのだが、マスキングテープは手切りでは真っ直ぐ切れないのだ。

 「合理」「正確」「プロセス」「マニュアル」……、規律に満ちた世の中で、真っ直ぐではないものに出会うと人はほっとする。そもそも人間の身体も自然界も曲がったりくねったりで、直線なんてどこにもない。「直線=合理ばかりが生きる道じゃないよ」「人も自然の一部なのだからもっとナチュラルに生きようよ」、マスキングテープはそんなメッセージをささやいてくれているようだ。

 人々の心の中から湧き出てくる気持ちを感知して事業にする。

 プロダクトアウトでもなくマーケットインでもない、それを“ピープルアウト”と呼びたい。人の心の底から湧き出ることを読み込んで起点にすれば、現行製品の用途や機能の呪縛から解き放たれる、新しい商品軸の発想に近付ける。“ビジネスモデル”という合理用語をいったん忘れて、「ピープルアウトなモデルを創ろう!」と考えてみたらどうだろう。ピープルの行動や心理から事業をとらえなおす。市場の構造転換期に不可欠な態度である。

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