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» 2009年05月28日 07時10分 公開

JAniCAシンポジウム2009:20代アニメーターの平均月収は10万円以下――アニメ産業が抱える問題点とは? (5/7)

[堀内彰宏,Business Media 誠]

アニメ産業の空洞化

――もう1つ今回の調査で分かった問題として、動画と原画の人数比から見た時の産業空洞化の問題があると思います。一般的にある作品に関わる原画と動画の人数は、動画の方が絶対に多くなり、場合によっては倍くらいになるはずです。それにもかかわらず、今回の調査では動画が原画の半分程度と非常に少ない人数であることが示されたように思います。神村さん、どのようにご覧になっていますか?

神村 動画が少ないということは皆さんお分かりと思いますが、日本にいるアニメーターの数を計算すると4000人くらいではないかと推測しています。そして海外、東南アジアや中国、韓国におそらく1万人の動画がいます。そういう計算でないと成り立ちません。

 (アニメーターの)新人は大体動画から入りますが、その部分の仕事が日本の動画の子たちを飛び越えて海外に出ていってしまうのです。そうなると、日本の動画の人が手が空いてしまうという状況になり、これがまた新人の低収入の1つの原因になっていると思います。

主収入職種

浜野 残念なことに「人手のかかる産業が空洞化になる」というのは宿命なんですね。ものを作る場合、技術革新によってコストはいくらでも安くなります。それで余裕ができるので、賃金の配分が多くなっていくわけです。

 しかし、人手のかかるところでは生産性が上がらないため、本来は賃金を低いままにしなければならないのですが、一般社会並みに上げないと人が来なくなるから、上げざるをえなくなるんです。そこで何が起こるかというと、アニメーションの単価が高くなって、テレビ局が「買うのやめよう」となり、産業がダメになっていくんですね。そういう悪いサイクルをコスト病と言います。典型的なのが学校教育や医療、行政サービスで、全部日本は崩壊していますよね。

 「技術革新が起こらない限り産業は空洞化する」というのはボーモルという先生の理論(参照記事)で、アニメーションはデジタル化である種の技術革新が起こったのですが、(それでも生産性の低い業界なので)コスト病というサイクルが起こり始めている可能性があるということを考えていただきたいと思います。

――コスト病という点について、実際に仕事を海外に発注されることもあるだろう竹内さんはどう見ていらっしゃるのでしょうか?

竹内 海外の単価の問題を考えると、僕は中国や韓国がトータルで考えた時に日本より安いとは思っていません。輸送費が必要だったり、中間業者がいるので。ただ、僕が思っているのは、海外に発注した方が安くて質が守られるなら、それは海外に発注する以外ないんです。だってそっちの方が有利なんだから。何も手が遅くて、仕事ができない人間に高いお金を払う必要はないんだから。

 でもトータルの価格は変わらないのに、なぜ海外に出しているのかというと、僕は「制作進行の怠慢ではないか」と思っています。(スケジュール管理がうまくいかなくて)今日2000枚の動画をやって色を付けなければいけない(ということがある)。それは「制作進行の怠慢かもしれない」と僕は考えています。

――仕上げなどの工程を担当されているWishの高橋(宏一)さんが会場にいらっしゃいますが、今のコメントをお聞きになっていかがでしょうか?

Wishの高橋宏一氏

高橋 先ほど動画の年収が低いという話がありましたが、Wishには動画が45人います。国内最多だと思いますが、今年2年目に入った人たちの平均月収は12万円を超えていて、上は20万円くらいもいます。

 それはなぜかというと、月産500枚を超えているからです。動画の仕事には波があるので、普通のスタジオや制作会社に所属していると、手が空く日が何日もあったりします。そういうことで、月産枚数が安定しないということがあると思います。

 Wishは仕上げ主体でやってきた会社で、いつもスケジュールで泣かされてきました。1日に5000枚くらい塗ってくれとか、スケジュールの関係で中国に発注することにしたということで仕事がなくなったりしました。

 動画を国内に戻すことでスケジュールを何とかできないかと試行錯誤をして、2007年に経済産業省の関東経済産業局と共同で「動画マン育成センター」というプロジェクト(参照リンク)をやりました。やったのですが300人規模を想定して企画したために、場所がなくてセンター設立までに至りませんでした。

 そこで動画センターの規模を小さくして、我が社で実験的に続けましょうということで、Wishの動画を増やしました。現在、仕上げは国内最大で月20万枚弱受注、動画も月7万枚くらい受注しています。受注している数が同時に増えているんですね。もちろん動画月7万枚は、私のスタジオではできないので、実はうちも海外を使っています、

 今、「国内ネットワークを作ろう」ということで、各社いろいろ協力して、国内だけで月7万5000枚の動画をこなせるような形を整えたいと思っています。動画をやってくれる国内の場所ができれば、動画(の仕事)は豊富になるので、新人でも月500枚を超える枚数の仕事が得られ生活できます。

 なおかつ動画で経験を重ねて原画になれる、才能のある人が残れるチャンスが来るのではないかと思っています。Wishでは2年半くらい前から動画を増やしましたが、今年その中から5人ほど原画に上げることができました。これをこのまま続けていきたいと思いますので、できればほかの場所でも新しい動画のスタジオを作っていただいて、国内に動画(の仕事)を戻して、そしてその中から優秀な原画を多数出すというプロジェクトが実現することを、政府その他業界含めて取り組んでいただければありがたいと思います。

――アニメーターにとって動画工程というのはどういう意味を持つのでしょうか?

神村 業界の中には「動画は中国でいいよ」と言ってしまう人もいますが、動画工程は作画の最後の砦ですよね。画面に出るのは動画の絵です。ですから、「(作品の)クオリティを維持するためには、優秀な動画の人がたくさん国内に必要だ」と私は思っています。

竹内 僕も動画は必要だと思います。ヤマサキさんは「デジタル化以降、動画が大変になった」、要するに「動画1人の制作能力が前と同じだとしても、生産できる枚数が下がった」とおっしゃいました。そのことと、(高橋さんが言うように)「手の空く日がないよう仕事を入れれば(収入が確保)できる」ということは、僕の中では相反しています。また、大量一括処理をすればそれでOKかというと、そこも僕は疑問はあるんです。

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