「辞めますカード」に効果はあるか?(2/2 ページ)

» 2009年07月24日 07時00分 公開
[増沢隆太,INSIGHT NOW!]
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 会社組織で管理職になる人は、よほど会社の屋台骨を揺るがしかねないほどの突出した功績・業績でもない限り、「辞めたい」人を保持することはできないことを分かっています。一度辞めようと思った会社は、その人にとっては、もはや何をするにもダサくて、機能不全で、低待遇の、居るに耐えない場所としてしか、もはや認識できなくなってしまうのです。

 従って「辞めます」カードは出したらおしまいなのです。言った瞬間から上司と会社はただちに退職モードに入ります。退職モードとは、まず業務の継続、当然次の人員補充も手配しなければなりません。そのような事後処理活動に入ることです。

 ですからその後で「やっぱり辞めるのやめます」と言われても、もう対応策が動き出した後では取り返しがつきません。求人広告やエージェント手配、あるいは社内異動なども動き始めてしまったかも知れません。交渉カードとして、「自爆」は最後の切り札です。切り札を使ってしまえば後はありません。「だから言ったら終わり」なのです。

 いや、以前辞めると言ったら上司が必死に説得して、ボーナスも上積みされ辞めさせてもらえなかった、という方もいるかも知れません。当然あり得る状況でしょう。その職務が代えがきかず、さらにイベントなどスケジュール的にも補充が出来ない、ゼロから新人を育てる余裕がない……など、状況によってはカードが効果を生むことはあるのです。ただし! それは瞬間的な効果に過ぎず、結果としてそのような交渉を行って成果を勝ち取っても、その後それほど長くない内に、やはり最終的に退職、となってしまうことが少なくありません。

 少なくとも一度でも「辞める」と口にした部下は、いつか辞める最大の候補です。どうせいつか辞める人間を昇進させたりする効果・価値が無いと考えるのが組織管理者にしてみれば当然ではないでしょうか。そんなロイヤリティの無い人間より、多少パフォーマンスが低くとも、モラルの高い人間にチャンスを与え、チャンスがきっかけで成果を出してくれれば、口うるさいベテランより、はるかにその組織は活性化するのではないでしょうか? やはり「辞めますカード」は交渉の道具にはならず、ただの自爆スイッチに過ぎないのです。

 では、「身を賭した交渉」は出来ないものでしょうか。簡単です。「辞めます」と言わなければ良いのです。上長に「お話があります」と呼びかけ、業務上の問題点や要望などを話し合います。その際にご自身がいかにこのままではもたなくなるかを客観的に説明しましょう。まともな上司であれば、気付きます。上司としてまともでなくとも、管理職としての危機意識や保身を考えられる人であれば分かるはずです。

 政治家の失言がたびたび問題になりますが、公式非公式によって、本来そのメッセージは区別されなければなりません。しかし現実にはネットやマスコミの操作によって、「オフレコ」発言なのに責任を取って辞任なんていう、わけの分からない展開もあります。

 交渉ではこの使い分けを戦略的に行う必要があります。ネゴシエーションでは感情的になればほぼ確実に負けます。先ほどの事業本部長のように、深々と頭を下げながら内心ガッツポーズを取れる人が交渉の勝者だと考えます。(増沢隆太)

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