人生はエースコックとともに 「はるさめヌードル」の絶妙なポジショニングそれゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2009年07月28日 07時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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エースコックさん、ありがとう

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 「特定健診・特定保健指導」。つまり「メタボ検診」が始まったのは2008年のこと。はるさめヌードルの発売はそのはるか以前である。別段、法律に定められた健康診断で、「あなたはデブです」「あなたはデブ予備軍です」などと指摘されなくても、誰しも自分のカラダのことはよく分かる。ぷっくりでっぷりしたおなか。大胸筋じゃない、揺れる胸板。パンツに乗っかる腰まわりのでっぱり。ワタシ脱いだらすごいンです……。

 そこで、「女もすなる『超低カロリーはるさめ食』といふものを、男もしてみむとてするなり」と、はるさめに興味を示したイノベーティブな男性ターゲットをいち早くとらえ、ポジショニングを変更したのである。

 ポジショニングマップで表わすならば、縦軸が↑「がっつり味」↓「あっさり味」。横軸が →「健康第一!」←「不健康上等!」といったところだろうか。スープはるさめは「あっさり味」×「健康第一!」のポジションであることはわかりやすい。

 「がっつり味」×「不健康上等!」の根性の入ったポジションは、ラーメン店であれば究極は「ラーメン二郎」だろう。東京都を中心に首都圏でチェーン展開している、がっつり系ラーメンの総本山のような店で、濃厚なスープに他店の2倍はあろうかというめんがからみ、昼時は学生や会社員で行列が出来る人気ぶりだ。だが、エースコック本来のがっつりっぷりもラーメン二郎に負けていない。

 「スーパーカップ1.5倍」は「この味、やみつき、がっつリッチ!」とがっつりさをストレートに訴求している。「最後の一滴まで飲み干したくなる本格スープ」とする「飲み干す一杯」シリーズもまぎれもないがっつり系である。この「がっつり味」×「不健康上等!」の象限こそが、エースコック本来の姿であることが分かる。

 そんな、魅力あふれるがっつりワールドから泣く泣く離れなくてはならないオトコたちに、「がっつり味」×「健康第一!」という象限に投入されているのが「はるさめヌードル」だ。「がっつりで健康」という成立しづらいポジションを可能にしているのは、がっつりブランドの代名詞でもあるエースコックならではのことだ。「うま辛チゲ」「胡麻ねぎ豚骨」「熟成ルゥカレー」「とんこつ醤油」「豚キムチ」など“一杯の満足”を期待させるラインアップ。でも、カロリー200キロカロリー未満。

 「サラリーマン金太郎」や「特命係長只野仁」で見事な肉体と格闘アクションを見せつけた中年の星・高橋克典が、「カロリー制限すべきだよ!」と語りかける。「オレもあんな大胸筋に」という憧れを醸成し、「低カロリーだけど、がっつり味なら自分もダイエットできるかも!」と手に取らせるポジショニング。

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 学生時代にはラグビーやらテニスやら体育会系サークルに所属し、「おれいくら食べても太らないモンね。ガッツリ食うもんね」とスーパーカップをスープまで飲み干していた筋肉自慢の男性が、世間の荒波にもまれ、妻と子を必死で養い、接待で飲み食いを重ね、身体にたっぷりと脂肪を蓄え、女子社員にお腹のたるみを指摘され、「お腹気になるもんね。でも心はガッツリだもんね」と、お昼時に、はるさめヌードルをすする。

 泣けてくる。エースコックを狂言回しに歩んできた人生が目に浮かぶようではないか。何という哀愁。何という顧客生涯価値。最近流行の「アメトーーク」ばりに、「カップめん芸人」を集めたら、きっと「エースコックさんはすごいんですよ!」と口をそろえることだろう。

 いつまでも大人になりきれないオトコたちの心を「あなたはがっつりのままでいいのよ」と全肯定しつつ、「でもいつまでも健康でいてね」と、母親のように優しく包み込む。

 エースコックさん。ありがとう。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道18年。コンサ ルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダ イヤモンド社)。

「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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