「自分の登るべき山」はどこにある!?――キャリア形成の考え方(2/2 ページ)

» 2009年09月30日 08時00分 公開
[村山昇,INSIGHT NOW!]
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幸せなキャリア作りとは?

 キャリア作りにおける選択肢や出来事には、あらかじめの正解値はない。その後の行動で、それを結果的に「正しかった」と確信できる状況にできるかどうか――それこそが最重要の問題なのです。

 アメリカンフットボールの名コーチとして知られるルー・ホルツはこう言いました。「人生とは、10%の我が身に起こること。そして残り90%はそれにどう対応するかだ」

 もう1つ、画家パブロ・ピカソの言葉――「単なる出発点にすぎない着想を、それが僕の心に浮かんだとおりに定着できることはまれなのだ。仕事にとりかかるや否や、別のものがぼくの画筆の下から浮かびあがるのだ。……描こうとするものを知るには描きはじめねばならない」

 私はここで「絶対的な目標を立てるな、全ては柔軟的であれ」と言って、「意図的に作りにいくキャリア」の欠点だけを強調するつもりはありません。1つ決めた道を何が何でもやり遂げるという生き方は素晴らしいものです。逆に「結果的にできてしまうキャリア」を偏って肯定すると、今度は漂流するキャリアという現象をまねく危険性が出てきます。

 私が本記事で主張したいことは、

  • 各自が「自分の登るべき山」を持つことは必須である
  • しかし「自分の登るべき山」はそれ1つのみではないかもしれない
  • キャリアをひらくためのもっとも重要な力は「状況を創出するたくましさ」である(計画する力は二の次のものである)
  • 状況を創出しようと奮闘する過程で見えてくる山が真の山であることが多い
  • そう構えれば「自分の登るべき山」はそこかしこに無限に存在する
  • そして死ぬ間際に「自分の登った山」(1つかもしれないし、複数かもしれない)を充実感を持って振り返る――それが「幸せのキャリア」(「成功のキャリア」ではない!)である

とにかく「もがいてみろ!」

 最後に理解の補足・おさらいとして下図をみてください。

 あなたは、キャリアの途上で、当初目指したD山もZ山も登頂がかなわずに(それは意志・努力が足りなかったのか、運命のいたずらなのか分からないが)、P点に落ちてしまった(P点に退く形にしかならなかった)。あなたはともかく気落ちしています。

 さて、あなたはもうこの世に登るべき山など見出せないのでしょうか? これまで登頂できなかったD山やZ山を恨めしく思いながら生きていくのでしょうか? もう山なんぞこりごりだと言って適当に自分をごまかして過ごしていくのでしょうか?

 ……まぁ、そうすることもできるでしょう(そして、実際、そういう人は多い)。しかし、私が本記事で訴えたいことは、「もがいてみろ!」ということです。ともかくもがくことで、いったん、Q点のような少し見晴らしのきく場所に辿り着くことができる(下図)。

 そして、そこから、実はいろんな次の山が見えてくる。それはR1という山かもしれないし、R2かもしれない、R3かもしれない……、無限の種類のR山がありうる(P点に沈んでいた時には想像もつかないようなR山が)。

 結果的にR山を登ってしまった人にとっては、過去のP点の自分を悠然と振り返られる。逆に、P点でもがくことをせず、妥協の人生に流れた人は、ついぞR山の可能性が無限に広がっていたことに気づくこともなく生きていく。

 最後に、本記事のタイトル「『自分の登るべき山』はどこにある!?」に対する答え、それは「そこかしこに無限にある!」

植村直己氏の言葉

 思い出した補足をもう1つだけ。私がかつて大学で講義をしたときに学生に伝えたことです。

 冒頭の「何がなんでも司法試験合格」「何がなんでも東大」のように、就職の際の会社選びにしても「何がなんでも三菱商事」とか「何がなんでも東京海上」など世間の決めたランキングによって、ブランド品を欲しがるように就職先を志望する。その発想に揶揄(やゆ)と親心の助言を込めて、私は冒険家・植村直己さんの次の言葉を紹介しました。

 「私は五大陸の最高峰に登ったけれど、高い山に登ったからすごいとか、厳しい岸壁を登攀したからえらい、という考え方にはなれない。山登りを優劣でみてはいけないと思う。要は、どんな小さなハイキング的な山であっても、登る人自身が登り終えた後も深く心に残る登山がほんとうだと思う」(植村直己『青春を山に賭けて』より)(村山昇)

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