DVDからブランドバッグまで……付録付き雑誌が増えている理由出版&新聞ビジネスの明日を考える(5/7 ページ)

» 2009年11月02日 08時00分 公開
[長浜淳之介,Business Media 誠]

TSUTAYA関連のAV会社も雑誌社とのコラボでヒット

 AVや成人向け雑誌の事情に詳しい、「All About」エンタメ分野アダルトビデオのガイドである、AVライターの大坪ケムタ氏に事情を聞いてみた。

 「おそらく出版社とAVメーカーの現状を考えると、むしろ出版社のメリットのほうが大きいと思いますよ。AVメーカーから素材を借りてくれば制作費はタダですから。付録のDVDを自社製作している出版社もあるのですが、残念ながら作りが中途半端で売れないのです」

 大坪氏によると、出版不況とインターネットや携帯電話で簡単にアダルトコンテンツが見られるようになった影響などで、男性向けグラビア誌や漫画を含む「18禁」の成人向け雑誌の部数は、ここ4〜5年で半分以下になっているとのこと。つい先日も、小学館が2000年に創刊しグラビア界をけん引してきた雑誌『sabra』が、2009年1月発売号で休刊を決めたように、休刊が相次いでいる状況である。

 AVメーカーも不況の影響を受けているが、全般的には雑誌ほど極端な不振ではないらしい。制作費にお金が回らなくなった出版社の窮余の策が、AVメーカーから写真を借りて再構成して雑誌を作り、サンプル動画の素材を借りて付録のDVDを付けるという手法であった。

 モデル、AV女優の出演料も、カメラマンに払うお金も、監督も台本もメイクもヘアメイクもスタイリストも照明係も音声係もみんないらないので、制作費は大幅にカットできる。AVメーカーに払う使用料は低額なので、むしろその程度の出費で済むならありがたいほどだというのだ。

 「プレステージ本は2008年あたりがピークで、一時期は月に8冊くらい出ていました。今年は月に2〜3冊くらいに落ち着いてきました。代わっていろんなメーカーの雑誌が出るようになってきました」(大坪氏)と、今年になってプレステージ本の独走に歯止めがかかってきているようだ。

 その中で雑誌展開に熱心なAVメーカーの1つに「S級素人」というレーベルがある。これはトップ・マーシャルというAV専門流通会社の傘下にあり、そのトップ・マーシャルは「TSUTAYA」FC本部のカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の連結グループ会社である。CCCは「TSUTAYA」でレンタルしているAVの一部を、関連会社で自作しているのだ。

 ケイ・エム・プロデュース、レアル・ワークス、メディアステーションといったAVメーカーもCCCの連結グループ会社。東証一部上場会社でアダルトビジネスにこれほど熱心な会社が、ほかにあるだろうかと思うほどだ。傘下のレーベルには「宇宙企画」「アテナ映像」といった、かつて一世を風靡(ふうび)したメーカーも含まれている。

 「S級素人」で興味深いのは、プレステージの各シリーズによく似ていることだ。例えば「S級素人」の女子校生物『放課後わりきりバイト』シリーズはプレステージの『REC』シリーズに、ギャル物『SAFARI』シリーズは『WATER POLE』シリーズに、OL物『現役OLの裏バイト』シリーズは『働くオンナ』シリーズに、パッケージの雰囲気からして本当によく似ている。

 もちろん2008年7月から販売が始まった「S級素人」の方が後発である。また、ここでは本物の素人出演はほとんどなく、素人役にはプロのAV女優が出演している。

 「トップ・マーシャル系のAVは、業界の大手流通4社の中ではS1(エスワン)などの人気メーカーを持つ北都系、製作力のあるソフト・オン・デマンド系、プレステージ系などに比べても内容が弱く、時流に乗っていないので伸び悩んでいます。ただ、S級素人は他社のAVに比べて価格が半額から3分の2くらいと安いから売れていますね」と大坪氏。

 「S級素人」の価格は2079円。競合のプレステージの商品が2980円や3800円といった価格設定にしているのに対して確かに安い。作品のテーマのみならず、DVD付き宣伝本によって知名度を上げて売っていく拡販の方法も同じで、まるでプレステージを後追いしているかのようにして売り上げを伸ばしているのが「TSUTAYA」関連会社の「S級素人」なのである。

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