第41鉄 夏の青春18きっぷ旅・最終回 富士山外周、山北駅のD52とB級グルメを訪ねる杉山淳一の+R Style(5/6 ページ)

» 2010年10月19日 12時07分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

 その製紙工業地域が終わると富士宮駅。B級グルメとして有名な「富士宮やきそば」の街である。さて、どこで食べようか、と改札口を出ると、その正面に富士宮焼きそばの店があった。「富士宮焼きそば学会」のアンテナショップとのこと。便利だ。さっそく大盛りを注文した。この店では富士宮焼きそば味のスナック菓子や、宇都宮焼きそばハンドブックという冊子もある。冊子によると、富士宮焼きそばは町おこしのために無理矢理作り出されたメニューではなく、当地ではもともと焼きそばをラードで作る習慣だったとのこと。また、具として天かすを使っていた。これが転じて肉の脂身(肉かす)となったという。

 そういえば、1990年代に富士スピードウェイのスタンドで食べた焼きそばもラードでいためていた。あの焼きそばの発展型が富士宮焼きそばなのだ。富士宮焼きそば学会の活動記録も面白い。焼きうどんで町おこしを企画した北九州市でイベント「天下分け麺の戦い」、焼きそば町おこし仲間の群馬県太田市、秋田県横手市とイベント「三者麺談」……こうした活動が現在のB-1グランプリにつながっているようた。B-1グランプリを企画した「愛Bリーグ」の会長は、富士宮焼きそば学会の会長でもある。

身延線富士宮駅は、富士山信仰の拠点駅として栄えた
こちらも富士宮駅。参拝輸送に対応した長いホームと、団体客に対応した車寄せが特徴的
橋上駅舎の自由通路にある富士宮焼きそばの店
富士宮焼きそばは、コシのある麺と肉かすのコクが特徴とのこと。魚が苦手な筆者としては、トッピングの削り節はお好みにしたかった。次に頼むときは抜いてもらおう

身延山を見上げ、富士川に沿う

 お腹いっぱいの充実感。甲府行きの電車に乗った。313系電車は通勤形のロングシートと近郊形のセミクロスシートの2種類があって、身延線では両方のタイプが走っている。富士宮まではクロスシートだった。今回はロングシートである。クロスシートのほうが旅らしい気分になり鉄道ファンや旅人に人気だけど、実は私はロングシートも嫌いではない。空いているときに限れば、シートに座り、向かい側の窓を観ると、窓ガラスが連続して大きな視界が開けている。窓枠や扉は、映画フィルムのコマのつなぎ目だと思えば気にならない。

ロングシートの車両に乗ったら向かいの窓を見よう。こんなに視界が広い

 西富士宮を過ぎてしばらく走ると平野部が終わり、谷の景色が始まる。富士山の懐に入ったような感覚だ。車窓右手は山の斜面で、ここからは晴天でも富士山は望めない。しかし左側の車窓がいい。身延線はここから富士川に沿って谷を上っていく。晴天ならさぞ美しかろう。でも、霧に煙る谷の景色もまたいい。静かで、寂しげで、隠れた山頂に神が住んでいそうな……列車の窓ガラスの1枚向こうに荘厳な空気を感じる。

 その佇まいは昔もいまも変わっていないのだろう。鎌倉時代、日蓮の教えに帰依した南部実長という武士が身延山中腹に草庵を作り、鎌倉幕府に迫害された日蓮をかくまったという。その草庵はその後、日蓮によって妙法華院身延山久遠寺と名付けられた。身延山は身延線身延駅を出るとすぐに左手に現れる。奥の院がある山頂は灰色の雲が覆っていた。大切なものを守るために、そこだけ雲が隠したような姿である。

富士川を眺めつつ上っていく。対岸の道路は国道52号線。落石覆いの造形美
内船駅で特急「ワイドビューふじかわ」とすれ違う。1日7往復も走る人気列車で、今年で運行開始から15周年を迎えた。記念セレモニーも行われ、10月と11月には富士山をデザインした記念ヘッドマークの列車も走るという

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