上司は部下の仕事にどこまで干渉するべきか?吉田典史の時事日想(2/2 ページ)

» 2011年09月09日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]
前のページへ 1|2       

承諾を得ようとするならば、6回は言え

 会社で仕事をしていく際の承認について、川口さんはその後、こう答えた。これも私が読者に考えてほしいことである。

 「私はリクルートコスモスに勤務していたころ、上司などから『承諾を得ようとするならば、6回は言え』と教えられた。本気でその仕事をやりたいと思っているなら、6回くらいは言い続けられる。実際、そのような修正と提案の繰り返しによって、最初に言った内容に比べて格段に良くなった実感があった」

 さらにこう続ける。

 「上司は部下の仕事については、『こうした方がいい』などと干渉をするべきだ。部下も上司に説得を何度も試みるべき。私は、部下の仕事に干渉しまくる上司たちの下に長年いた。とにかく、組織として合意を得るまで徹底してやり直しと議論が行われた。安易な決裁を行う上司などいなかった。その方が仕事の内容も良くなる。仕事をしていく力が確実に上がっていく」

 私は、この考え方は会社員のころの経験に照らしても、正しいと思う。リクルートというと一匹オオカミ的なタイプの人が多く、上司の指示をさほど聞くことなく、猛烈に仕事をしてバリバリと契約を取ってくるイメージがなきにしもあらず、だった。だが、川口さんは「自分がリクルートにいたころには、そのようなタイプの社員はいなかった」と答える。

 ところで、私はこの干渉しまくりこそが仕事をしていく力を上げていくために大切なことと考えている。そこで具体例を挙げよう。例えば、私の、5年ほど前の取引先に2つの会社があった。A社とB社としよう。

 A社は社員数が約800人で、社会人向けの通信教育をしている会社。担当者は新卒で入り、3年目の男性だった。3年目にしては話す内容も、メールで書いてくる内容もスキがない。それらは30代後半という感じだった。

 それもそのはずで、電話をしてくる時にはその横に課長がいたようだ。そして、「こう言え、これは言うな」と干渉していたという。これは2年ほど後に、男性から聞いた。男性いわく「(課長が)口うるさいから、キレそうになったことがある」という。彼は今、30歳目前だが、同世代のほかの社員よりも精度の高い仕事ができる。その上司(口うるさい課長の後任)からも、評価は高い。

 一方で、B社は社員数約30人の出版社。ここも、社会人向けの通信教育の本を編集制作している。私の担当は、当時30代前半の女性の編集者。職務遂行能力のレベルは23〜25歳ほどだった。送られてくるメールの意味が分からない。電話をして確認をしようとするが、要領を得ない。本の制作に進むと、ビギナーのレベルだった。

 彼女は一匹オオカミだった。上司からは野放しにされ、自由気ままに仕事をしていた。だから、企画書を見ても稚拙だった。それでも、本人は“一人前の編集者”気取りだった。私には自主性という言葉の意味をはき違えた、気の毒な人にしか見えなかった。2年ほど後、いなくなった。退職の理由は、そこに出入りするデザイナーいわく「役員から辞めさせられた」という。

 この例に限らないが、上司が部下に干渉しまくりの方が間違いなく部下の力は伸びる。そのプロセスでしか、組織の中で合意を形成したり、承認を得る力は身に付かない。そして、これらの力がないと、上手くいかないのが会社なのだ。

 上司や、会社を批判する以前に、組織の中で仕事をすることの意味を改めて考えてみることも必要ではないだろうか。

関連キーワード

仕事 | 会社 | 上司 | コンサルタント


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.