地球ぐるみでモノを作る「パーソナル・ファブリケーション」、ネットでいえば何年?遠藤諭の「コンテンツ消費とデジタル」論(4/4 ページ)

» 2011年10月20日 12時22分 公開
[遠藤諭,アスキー総合研究所]
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FabLab鎌倉の入り口に掲げられた案内板

 情報だけではない。カッターや3DプリンターやNC旋盤にかけられるデータを、直接やりとりすることも可能だ。さらに重要なのは、「誰かが何かを作った、それをみんなが批評する」とか、「誰かが何かで困っている、それをみんなで教えてあげる」といったことである。

 つまり、人と人のつながりの意味の「ソーシャル」という部分によるところが大きな原動力となっている。さらには、手作りでできることは、物流の充実していない国や地域でモノを作ったり、修理したりすることも可能にする。人と人がつながって、結果的に社会に対して何ができるかという意味での「ソーシャル」とも関係してくる。

 田中氏によると、FabLabの考え方は「Do It Yourself」ではなく、「Do It With Others」なのだという。それによって、例えば、立方体の積み木をみんなで調達するといったこともできるだろう。誰かが私に、奥行きに30センチ余裕のあるテーブルの設計図をくれれば、私は材料を加工してもらい、日曜日に組み立てられるかもしれない(FabLabが近くになかったら、加工自体は東急ハンズでもやってくれるだろう)。

 パーソナル・ファブリケーションという言葉そのものは、決して新しいものではないのだが、「いまはネットにおける1992年頃の状況なのですよ」とも言われた。1992年といえば、まだWebブラウザーも普及しておらず、私もまっ黒な画面から米国のbooks.comにアクセスして本を買ったりしていた。これからメチャクチャ楽しい世界が始まる前夜といった感じである。

 コンピュータの歴史を見ると、1980年代にオープンソースが台頭してきて、1990年代に急拡大した。他人のコードを活用しながら、1人のパワーでも比較的容易に高機能なソフトが書けるようになった。いまや世界を覆い尽くしたインターネットの多くのサーバーも、Linux、Apache、MySQL、PHPといったオープンソースだけで動いている。デジタルカメラやDVDレコーダーの中身も、Linuxであったりする。

 要するに、ソフトウェアで起こった「オープンソース」という一大変革と同じようなことが、私たちの身の回りの「モノ」でも起こりうるということだ。そのようなことが、いま、少しだけ広がりはじめている。手作りの世界が変わるだけでなく、モノ作りすべてに波及することも容易に想像できる。ちょっと似た現象として、台湾のODMメーカーはCADデータを顧客企業に渡し、「ここから先のデザインはご自由にいじってください」などとネット経由でやっていたりするそうだ。これからどんなふうにWebブラウザーにあたるものが出てきて、世界中の人が使うようになるのか? いまが1992年であるとすると、相当に楽しそうである。

遠藤 諭(えんどう さとし)

ソーシャルネイティブの時代 『ソーシャルネイティブの時代』アスキー新書および電子書籍版

 1956年、新潟県長岡市生まれ。株式会社アスキー・メディアワークス アスキー総合研究所 所長。1985年アスキー入社、1990年『月刊アスキー』編集長、同誌編集人などを経て、2008年より現職。著書に、『ソーシャルネイティブの時代』(アスキー新書および電子書籍版)、『日本人がコンピュータを作った! 』、ITが経済に与える影響について述べた『ジェネラルパーパス・テクノロジー』(野口悠紀雄氏との共著)など。各種の委員、審査員も務めるほか、2008年4月より東京MXテレビ「東京ITニュース」にコメンテーターとして出演中。

 コンピュータ業界で長く仕事をしているが、ミリオンセラーとなった『マーフィーの法則』の編集を手がけるなど、カルチャー全般に向けた視野を持つ。アスキー入社前の1982年には、『東京おとなクラブ』を創刊。岡崎京子、吾妻ひでお、中森明夫、石丸元章、米澤嘉博の各氏が参加、執筆している。「おたく」という言葉は、1983年頃に、東京おとなクラブの内部で使われ始めたものである。


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