社食レシピ本が425万部! タニタ・39歳社長の素顔嶋田淑之の「リーダーは眠らない」(4/5 ページ)

» 2011年12月16日 08時00分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]

イノベーティブな就業環境を模索

 谷田さんは社長就任後、自社革新のために多くの施策を行ってきたが、それらは基本的に、組織風土をよりイノベーティブなものへと変貌させることに最大の狙いがあったように思える。

東京都板橋区のタニタ本社

 まず、昔ながらの製造業的イメージだった本社社屋をリニューアルし、モダンであか抜けたオフィスへと変貌させた(オシャレでキレイなタニタ食堂もその1つ)。社長室はなく、社員の固有デスクも極力なくして、社長以下、その日その時たまたま座った席で仕事するという方向に進んでいる。

 そして、必ずしも出社しなくていいホームオフィス制の実現も目指している。このホームオフィス制は、親の在宅介護を理由に退職せざるを得ない社員がいたことが契機となって検討された、高齢社会化への対応策でもある。

 人事制度の面でも新しい施策は進行している。長引く個人消費の低迷、体脂肪計の成功体験にあぐらをかいていた組織風土の影響もあってか、谷田さんが社長に就任した当時、タニタの業績は、決して思わしいものではなかった。そこで、谷田さんは、社員の給料を2割カットする代わりに、一定の予算を付けて、各自が就業時間内に好きな活動に従事してよいという「チャレンジャー制度」を打ち出した。

 ただし、これは、3Mの15%ルール(通称「ドブロクルール」)や、グーグルの20%ルールとは異なっている。というのも、3Mやグーグルの場合には減給はなく、労働時間の15%もしくは20%を業務外の好きな研究活動に投じて良いというものだ。

 それに対して、タニタの場合には20%減給されるものの、好きな活動に使えるのは労働時間の20%だけという厳格な縛りはなく、MBAを取得するために出社せず大学院に通学する新入社員がいるなど、比較的自由でゆるやかな点が特徴だ。

 20%減給することで、ただ単に社員のモチベーションを低下させるのではなく、こうした制度を設けることで中長期的なイノベーション創発につなげていこうとするあたりが、谷田さんらしいところと言えようか。

 以上のような施策によって、現役社員たちの活性化はもとより、優秀な社員のリクルーティングという点でも、効果が期待されている。

昔ながらの経営家族主義が情報共有を促進

 経営にはどんな環境変化が生じても決して変えてはいけない「不変」の対象と、環境変化に即応して非連続・現状否定型で変えていかなければいけない「革新」の対象とが存在する。社長就任後の谷田さんの数々の施策を見ていて痛感させられるのは、「不変」と「革新」の対象の識別の的確さだ。

 健康計測機器の製造企業でありながら、レストラン事業に乗り出し、それが今後の同社のメインビジネスになるかもしれないことを知って、同社に対して、あたかも糸の切れたたこのような印象を持った人もいるかもしれない。

 しかし、「毎回平均500キロカロリーの定食をおいしく、そして満腹になるまで食べていながら、知らないうちに体重は減り、生活習慣病を予防することにもつながる」というタニタ食堂の思想は、「我々は『はかる』を通して世界の人々の健康づくりに貢献します」というタニタの経営理念と見事に合致することに気付かされる。

 また、同社のこれまでの歴史で「日本初」「世界初」となった商品がいくつもあることからも明らかなように、同社はイノベーティブな技術開発力に強みがあり、それゆえに大手企業にのみこまれることなく、これまで生き残ってこれた。

 谷田さんは体脂肪計の成功以降の自社内の状況を見て、こうしたイノベーティブな気風が失われかけていることに危機感を抱き、「不変」であるべきイノベーティブな気風を再確立すべく、社長就任以降、大胆な自社革新を推進しているのである。

 谷田さんの自社革新を表面的に見るならば、旧態依然たる部分を軒並み壊しているように見えるかもしれないが、決してそうではない。本当に必要のあるものだけに的を絞って変えていっていることは明白だ。

 例えば、昭和レトロ的な「経営家族主義」に関しては、むしろこれを大事に守っている。タニタは60歳定年制だが、年金受給が開始される65歳までの間のOBやOGの生活が困らないようにするため、タニタ総合研究所を設立して、そこでその間だけ雇用するなどの配慮を見せている。

 社内における日々の人間関係も、かなり濃厚だ。タニタ主催の地域交流イベントなどでは、社員たちが自分の家族を連れて出席し、家族同士で交流しているという。それだけではない。同期会と称して、部門を超えて社員同士が頻繁に飲み会などを催すほか、各種の社内サークル活動も盛んだ。

 タニタ本体の200人ほどの社員たち相互のそうした濃密なコミュニケーションを通じて、例えば、営業から商品企画へ、商品企画から営業へというように、各種情報はリアルタイムに他部門に伝わり共有化され、それが顧客の潜在欲求をいち早くキャッチし、新しい商品の企画開発へと結びつけていく役目を果たしている点は注目されるだろう。 

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