社食レシピ本が425万部! タニタ・39歳社長の素顔嶋田淑之の「リーダーは眠らない」(5/5 ページ)

» 2011年12月16日 08時00分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]
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同族企業の経営者だからこそ求められる強い倫理観

 2011年を振り返ると、前会長の巨額借入が発覚した大王製紙に代表されるように、同族企業の事件が目についた。そこで、谷田さんに同族企業トップとしての心構えについて聞いてみた。

 「創業者ファミリーは現在、タニタ本体に4人、関連会社に2人いるだけです。人数的には非常に少ないですが、やはりオーナーとしての影響力は大きいと思います。

 それも、自分たちがパワーを行使するというよりは、周囲(一般社員)が、思わず知らず創業ファミリーに気を遣ってしまっている面があると思います。私が最初、平社員としてタニタに入社した際の人事考課を見て、すぐにそれを感じました(苦笑)。

 それは同族企業として致し方のない面があると思いますし、だからこそ私は高い倫理観をもって行動することが必要だと感じています」

 そうした倫理観を、社内で日々どのように具現化しているかが問題だと思うのだが、私のこの疑問に対する谷田さんの答えは明快だった。

 「社員の給与をカットするに際しては、真っ先に自分の給与をカットすること。新幹線に乗るにしてもグリーン席は使わないこと。タクシーは使わず公共交通機関を利用すること。社長として社外からいただきものをする機会が多いが、それらは基本的に社内イベントの商品として提供すること。接待や会食などの機会も多いが、ビジネスに直結している場合を除いては自腹で飲食すること。挙げ始めたらキリがないですが、だいたい、お分かりいただけるでしょうか?」

 そういえば、谷田さんのニコニコ動画出演に関しても、最初の1年は、それがビジネスに効果をもたらすかどうか社内の合意もなかったので、関連機器はすべて自腹で購入し、しかもほとんど業務時間外にやっていたということだ。

 谷田さんは自身の倫理感に基づくこうした行動規範を、まずは役員全員に広げていくべく、現在、手続きを進めている。

モノグサ人間だからこそ画期的なアイディアを出せる

 タニタは2011年を通じて良い意味で注目を集めた企業の1つと言ってよいが、最後にその立役者としての谷田さんに自身のキャラクターをどう評価しているか尋ねてみた。

 「いやあ、私はとにかくおっくうがりのモノグサ人間なんですよ。社会に出てから、毎日、猛烈に働いていますが、でも本当は1分でも短く働くようにしたいと、いつもいつも願っているんです。だからこそ、新しい便利な商品が発売されたと聞くや、それに飛びつくんです。ニコニコ動画出演も含めて、ITへの親和性が高いのは実はそのせいなんです。

 でも、こうした性分には良い面もあって、どうすれば楽ができるかを常に考えている結果として、面倒なことでもコツコツと真面目にこなす人には思いつかないような発想やアイディアに結び付くことが往々にしてあるんです(笑)」

 「些事に神宿る」と言うが、タニタの躍進の要因は、実は、谷田さんのこうしたキャラクターにあるのかもしれない。2012年以降、タニタはどんな想定外の展開で我々を驚かせてくれるのだろうか? まずは2012年1月にオープンする「丸の内タニタ食堂」に1人の客として行ってみたいものである。

なぜか本社の社員食堂に来る人が続出したため、受付に断りのPOPを置いたという

嶋田淑之(しまだ ひでゆき)

1956年福岡県生まれ、東京大学文学部卒。大手電機メーカー、経営コンサルティング会社勤務を経て、現在は自由が丘産能短大・講師、文筆家、戦略経営協会・理事・事務局長。企業の「経営革新」、ビジネスパーソンの「自己革新」を主要なテーマに、戦略経営の視点から、フジサンケイビジネスアイ、毎日コミュニケーションズなどに連載記事を執筆中。主要著書として、「Google なぜグーグルは創業6年で世界企業になったのか」「43の図表でわかる戦略経営」「ヤマハ発動機の経営革新」などがある。趣味は、クラシック音楽、美術、スキー、ハワイぶらぶら旅など。


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