4分の1に縮小したジグソーパズル市場、老舗のサバイバル戦略は?嶋田淑之の「リーダーは眠らない」(4/4 ページ)

» 2012年02月03日 08時00分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]
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ジグソーパズルの発想しかできないことが弱みに

 しかし、そうした「新しい切り口の発見と、それに基づく新市場開発」は、言うは易く行うは難しである。実際問題として、やのまんでもPC上で楽しめるジグソーパズルを開発したものの、「PCでやっても面白くない」ということで売れ行きは伸びず、結局、撤退した経験がある。

 「ジグソーパズル会社として40年近くやってきたわけですが、逆にそれが“弱み”になっていることは認めざるを得ません。特化し過ぎて、組織全体がジグソーパズルの発想しかできなくなっています。組織能力の幅を何としても広げていかねば……」と矢野さんも言う。やのまんが視野狭窄(しやきょうさく)や近視眼思考に陥りかねない現状を危惧しているのだ。

 ジグソーパズルの伝統を守りつつ、世界初・日本初となる商品を開発し続けるなど、革新的土壌を有するやのまんですら、これだけ強烈な危機感を持っているという点は注目だ。「今日の成功は明日の失敗を宿す」という言葉もあるように、業界をめぐる環境変化の速さ、その振れ幅の大きさは、我々の想像を絶するものであるに違いない。3D球体パズルの大ヒットに、いつまでもしがみ付いていられる状況ではないということだ。

 そういう点で業界は異なるものの、前回インタビューしたタニタとの類似性を感じるのは決して筆者だけではあるまい。タニタもまた世界初・日本初となる商品を開発してきた健康測定機器メーカーだが、「体脂肪計や体組成計の成功体験にいつまでもしがみついているわけにはいかない」という危機感から、アンゾフ・マトリクスにおける多角化戦略を選択し、2012年1月にレストラン事業へ進出した(第1号店は「丸の内タニタ食堂」)。

 「多角化戦略」と「新市場開発戦略」という違いはあるものの、「非連続・現状否定型の戦略経営なくして自社の生き残りはない」という不退転の決意がある点で両社は共通している。

 やのまんでは「マネをされても、マネはしない」という不文律が暗黙知として社内で共有されているというから、革新的気風があることは間違いない。問題はそれをいかにして現実の新市場開発へと結びつけていくかだ。ジグソーパズル業界のパイオニアとしてのプライドに賭けて、私たちをあっと言わせてくれるような新機軸を打ち出してくれるのを楽しみにしたい。

嶋田淑之(しまだ ひでゆき)

1956年福岡県生まれ、東京大学文学部卒。大手電機メーカー、経営コンサルティング会社勤務を経て、現在は自由が丘産能短大・講師、文筆家、戦略経営協会・理事・事務局長。企業の「経営革新」、ビジネスパーソンの「自己革新」を主要なテーマに、戦略経営の視点から、フジサンケイビジネスアイ、毎日コミュニケーションズなどに連載記事を執筆中。主要著書として、「Google なぜグーグルは創業6年で世界企業になったのか」「43の図表でわかる戦略経営」「ヤマハ発動機の経営革新」などがある。趣味は、クラシック音楽、美術、スキー、ハワイぶらぶら旅など。


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