「国はアテにならない」、コンテンツは国を頼らず進もう中村伊知哉のもういっぺんイってみな!(2/2 ページ)

» 2012年03月02日 08時00分 公開
[中村伊知哉,@IT]
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これまでのコンテンツ政策からどう転換したのか

 それまでのコンテンツ政策からどう転換したというのか。具体的には以下の項目が挙げられるだろう。

  • コンテンツ産業振興予算→規制緩和・外交
  • 政策手段として、財政支出を期待するより、他の手法での活性化を図る。
  • 国内産業重視→海外展開重視
  • 成長領域として海外に焦点を当て、政策資源を集中投下する。
  • 国内職業人材育成→流入+底上げ
  • 海外からの人材流入策(CoEなど)と小学生からの底上げ(デジタル教科書など)を図る。
  • コンテンツ策→メディア、プラットフォーム策
  • コンテンツの生産・流通に効果的なメディア整備を進める(サイネージなど)。
  • 著作権保護強化→メディア規制の緩和
  • 通信放送融合法制、電波開放などをコンテンツ政策の観点から推進する。

 方向として正しいと思う。当初、政治パワーもあり、知財本部事務局の努力もあり、政府は骨の折れる取りまとめ作業をこなしてくれた。韓国の攻勢も認識され、クールジャパン政策も盛り上がりつつある。

 しかし。転換が目的ではない。新しい政策を「構築」することが大事だ。その点はまだまだ道半ば。施策が積み上がったとはいえないし、実績や成果を上げるのもこれからだ。福祉や農業、道路整備など政府全体の政策の中で、知財政策の占める位置付けをうんと高めたいのだが、それも十全ではない。

 さらに、この1年は、「国がアテにならない」という出来事が3件重なった。国会や政府の話ではなく、著作権に関する司法の判決だ。

 2010年末には、「私的録画補償金訴訟、東芝の協力義務に法的強制力なし」という判決が東京地裁から下された。

 2011年1月には、「まねきTV」は著作権侵害と最高裁が判断(「1対1通信のロケフリは「自動公衆送信装置」になりうるか 「まねきTV」最高裁判決の内容」)。

 同じく1月、「ロクラク」訴訟でも最高裁が審理を差し戻した(「最高裁、『ロクラク』訴訟でも審理差し戻し」)。

 最初の「録音録画補償金」問題は、5年以上も権利者対メーカーという、業界同士の対決が続いている。以前なら、こんな話は政府部内で調整され決着していたのだが、今や政府が産業の調整力を失っている。そして今回の判決は、メーカーが協力する義務はないから制度が動かない、そもそも制度に欠陥があるということを露呈させた。立法も機能不全だということだ。

 この問題は、著作権制度で解決しようとしているところに無理がある。両業界が共同のプロジェクトを作ったり、政府が研究開発の予算を付けたりするなど、別のアプローチで産業政策的に解決を図る方が効率的だ。携帯電話などから取られている電波利用料を活用するとか、設計中の電波オークションの収入をコンテンツにも回すといった知恵だってわいてくる。

 まねきTVとロクラクの件は、いずれも知財高裁での判決を最高裁が破棄したものだ。内容の是非の前に、こうもたやすく専門の裁判所の意思が覆されるというのではシステムが不安定で民間は動けなくなる。

 内容も疑問だ。判決の通りだとすると不特定多数の加入できるクラウドのサービスはすべて公衆送信となりかねない。私が他人のコンテンツ(記事など)を自分向けにクラウド上に蓄積・保存することはできなくなる。新しいサービスを開発する機運もそがれる。

 この判決ではユーザーもキー局も権利者も利益を得るわけではなく、ローカル放送局のビジネスが守られるだけだ。であれば、これも著作権制度で解決を図るより、地方局に対する不況対策などの産業政策を発動すればよい。

 問題は民間の姿勢だ。

 いまだ政権はフラついているし、司法も不安定という状況。こうした膠着状態を打破するには、国を頼るのではなく、民間で問題を解決していくしかない。ユーザーの望む利用を止めることに司法コストや行政ロビイングのコストを掛けていても元気は出ない。それより、ユーザーが喜ぶサービスを生むことにコストを掛けよう。ハードとソフトを組み合わせた新しいサービスを作り出し、ユーザーを豊かにする方向に進みたい。

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