「上司不在の職場」について考える(2/2 ページ)

» 2012年06月22日 08時00分 公開
[石塚しのぶ,INSIGHT NOW!]
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民主的とは「万人のため」にあらず

 上司不在の職場が機能するための前提条件は、「高いモチベーションをもった人材を確保することだ」と記事は述べる。また、民主的な企業を認定するワールドブルーも、企業が民主的であるということは、「万人に合う環境を作ることではない」と定義する。

 上司不在の職場が機能するためには、個人の適性以外に、組織的な前提条件もあると私は思っている。工業経済社会の遺産として引き継がれてきたマネジメントの考え方では、指令による制御が基本となっていた。しかし、「上からの指令」を取り除き、現場で働く社員のひとりひとりに権限を委譲するとなると、組織の統制は何をもってとられるようになるのか。

 指令にとって代わるのは、社員間での目的意識と価値観の共有である(ちなみに、これはワールドブルーによる民主的な企業の基本原則の1つともなっている)。ウォール・ストリート・ジャーナル紙の記事の中にはこれは述べられていなかったが、職場での「自由=権限委譲」が成立するためには、これが必要不可欠だと私は思っている。

「上司なんかいらない」と言われないために

 それにしても、上司不在の職場から読み取れるのは、現状、いかに上司という言葉がネガティブな概念と結びついているかということだ。上司不在の職場を描写する形容詞はフラット、敏速、やる気にあふれた、柔軟性に富んだ……などだが、そうだとすると上司がいる職場は階層的で、行動が鈍く、やる気に欠け、柔軟性に乏しいということになるか……。

 上司と呼ばれる立場にある人にとっては、耳の痛い警告である。「上司なんかいらない」と陰口を叩かれないためにも、組織に付加価値を与える上司になるためには、どんな人間であるべきかを自問自答せねばならない。これについてはまた別の機会にじっくりと考察してみたいが、まず言えることは、人に信頼される行動や言動をとることである。指令による制御が働かないとすれば、人が心からついていきたいと思うような人になる努力をせねばならない。

 そして、チームの潤滑油となることである。これは別に八方美人になれということではない。自分が人気者になるというよりは、チームの人たちがつながりを深め合えるような「お世話役」として働かねばならないということだ。これは時に、みんなが口に出しにくい問題点を指摘したり、居心地の悪い議論の口火を切ることでもある。

 最後に、ザッポスのCEOトニー・シェイの引用になるが、インスピレーションを与える人になるということである。インスピレーションとは日本語でニュアンスの伝わりにくい言葉だが、私は「自分のあり方によって人の心を動かし、自発的な行動へと突き動かす人」であると思っている。これらのことを総合すると、これからの上司には、IQならず、EQ(こころの知能指数)がますます問われるようになってくるということだ。(石塚しのぶ)

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