成功体験を壊す勇気、ザ・プレミアム・モルツ好調のヒミツを探るそれゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2013年04月03日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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ただ「もっと飲みたくなるおいしいもの」を愚直に作る

カナモリさん

 プレモルには、「手間隙を惜しまず、お客様にとって価値あるもの、つまり本当においしいもの、世界最高峰のビールをつくりたいという開発者の思いが、(モルツ・スーパープレミアム時代から)連綿と生き続けている」と、安達氏は話す。そのおいしさのキーワードは、「ヴァイタートリンケン」。ドイツ語で「飲み飽きない。もっと飲みたくなる。」との意味だ。

 リニューアルにおいても開発当初からのそのコンセプトは踏襲された。「ヴァイタートリンケン」とは、単なる飲みやすさではなく、もう1杯が飲みたくなるうまさ。すなわち「しっかりしたコク・うま味」を意味する。「例えるなら、飽きることなく後を引く、料亭のお吸い物の出汁のようなもの」だと安達氏は言う。そのコンセプトをさらに実現した味を開発するのが、プレモルのステージアップには欠かせないと判断されたのである。

 味の確定までには幾度も試作が重ねられ、社長に至るまでのチェックが繰り返し行われた。これは本当に「世界最高峰のうまさ」と言っていいのか――。試作は発売ギリギリまで繰り返され、発売自体も悩みに悩んだ末、最後はサントリーらしく「やってみなはれ」の精神で、ようやく決定されたという。

 その後の快進撃は冒頭、触れたとおりである。

 成功体験。それは時に危険な罠になる。成功体験に縛られて先に進めなくなり、やがて没落していくことを「成功の復讐」ともいう。プレモルの好調のヒミツは、過去の栄光を捨て、顧客離反のリスクを取ってまで、新たな成長を目指した点にあるといえる。しかし、そこには単なる売り手の理論だけでなく、顧客の「Value for money」に応えるという視点も忘れられていない点も見逃せない。現在の、プレモルの製品メッセージは、「コクのプレミアム。」。プレモルが目指す、世界最高峰のおいしさ「ヴァイタートリンケン」、即ち「しっかりとしたコク・うまみ」を体現しているか。是非、皆さんも商品開発背景のことになど想いを馳せながら、一度、飲んでみられたい。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。Facebookでもいろいろ発言しています。


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