パスファインダーズ社長。25年にわたる戦略・業務・ITコンサルティングの経験と実績を基に「空回りしない」業務改革/IT改革を支援。アビームコンサルティング、日本ユニシス、アーサー・D・リトル、松下電送出身。一橋大学経済学部卒。日本工業大学 専門職大学院(MOTコース)客員教授(2008年〜)。今季講座:「ビジネスモデル開発とリエンジニアリング」。
同じアジア新興国市場といっても千差万別。ひとくくりにしてしまう、または「消費者市場」と「生産地」を混同すると、とんでもなく無駄な苦労を強いられよう。
先の記事でも言及した「アジアの風〜小さな挑戦者たち」(BSジャパン、参照リンク)で以前紹介された、ライフリングという会社を例として挙げよう。同社の消臭製品シリーズ「ブリーズブロンズ」は驚異といっていい優れモノである。
主な製品はタオル、紳士用靴下や肌着、ベッドシーツなど。汗の臭いや体臭を短時間で分解、圧倒的な消臭機能を備える。しかも洗えばずっと効果が持続する。製造工程のせいでどうしてもコスト高なのでかなり高めの価格設定だが、介護業界では評価が高く、最近はネット上でも評判になっているようだ。
製品の評価・評判はもちろん、開発背景についても面白いのでネット上で調べていただきたいのだが、問題はここから。上記の番組において、今後の展開について同社社長は「アジア市場に進出したい。ついてはベトナムと中国だ」という。
中国はアジア最大の消費市場なのでうなずけるし、高価格でも高機能であれば購入をためらわない富裕層が、沿岸部の一部都市(上海など)には先進国並みにいる。ターゲットとして考慮するに値するだろう。
しかしベトナムを狙いたいという理由は少々ズレているように感じる。経済成長が目覚ましいことに加え、繊維産業が盛んなため、現地での製造の可能性も考えてのことだという。またまた「消費者市場」と「生産地」の混同である。
はっきり言って、日本人でも「ちょっと高いかな」といったんは考える、こんな高価な製品は、まだまだベトナム市場では早過ぎる(もちろん、少しでも低コスト生産をするためにベトナムで製造するというのは「あり」だ)。
アドバイスを求められた現地コンサルタント(日本人)も懸命に考えたのだろう、「バイクに乗るときに使うマスクをターゲットにしてはどうか。消臭性のあるものは喜ばれるはず」と提案する。確かにベトナムは国民1人1台以上のバイク天国。特に女性は皆、分厚いマスクをして乗っている(しかしこの理由、彼が指摘するような「排気ガスを避けるため」というより、実は日焼けを避けるためという理由のほうが強いらしい)。
確かに消臭性のあるマスクは興味を引くだろうが、そのために数倍の価格を払うとは考えにくい。普通のマスクを2つ所有し、交互に洗って使っていれば済むのだから……。
それより、この高機能・高価格を受け容れてくれる富裕層がいる、中国沿岸部と台湾、香港、シンガポール辺りにマーケティングの焦点を合わせたほうがずっと実際的だろう。
「同じアジア市場」と漠然と進出しては無駄な苦労を強いられることになるので、ターゲットを正しく見定めることが第一歩である。(日沖博道)
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