「木村さんは、どうして生きたいんですか?」
私の質問が予想外だったのでしょう。木村さんは「エッ?」と言ったきり、絶句してしまいました。けっして私は意地悪でこんな質問をしているわけではありません。今までたくさんの患者を診てきましたが、「なぜ生きたいのか」を真剣に考えてこなかった人があまりにも多いのです。
たいていの人が、死にたくない理由、まだ生きていたい理由すら真剣には考えていません。そのため、生活習慣病のリスクだらけの日々を送って、ある日突然、死を意識せざるを得ない状況に直面してしまうのです。
病気は、「こんな生活や考え方をしていたら、とても健康ではいられません」と、体と心が発するSOSです。言葉を発せない体や心が「なんとかしてくれ!」と悲鳴を上げてあなたに訴えているのです。
それでも自分を正さず、体や心をいたわらない人には「ここまで悪くならなければ、気付いてくれないのか」と、体が最後通牒をつきつけ、がんのような死を強く意識する重い病気を発症して「このままでは、とても生きていられない! なんとかしてくれ!」と必死で訴えるのです。
がんという病気は、考え方によってはいい病気だと、私は思っています。
がんはたとえ早期であっても死を意識する病気です。ここで死んではマズイと思えば、なんとか病気を治そうという気力が湧いてくるし、習慣を変えてでも生きようとするからです。
死を意識するということは、自分自身の寿命を意識することです。自分自身の寿命を意識すると「生きることには限りがある」と考えざるを得ません。ならば、そのなかで自分がやりたいことは何かを真剣に考えます。
それをやるためには、あとどのくらい生きていたいのかを考えるのです。
そして、自分のやりたいことのために限りある時間を有効に使うには、健康でいることが大切だと思い、医療とのかかわり方をきちんと考えるようになるのです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PRアクセスランキング