「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”」
米国の2014年予算審議が停滞したことによる米政府機関の一部閉鎖(参照記事)に続いて、米国債が返済不能(デフォルト)に陥ることが懸念され始めた。もしそうなれば史上初めてのことだ。金融市場は、さすがに共和党も債務不履行などという重大な事態を招くことまではやるまいと考えているようだが、実際に債務不履行になるとどうなるのか。
実際にもし米国債が債務不履行ということになったら、世界経済に与えるダメージはリーマンショックの比ではない。あの2008年9月15日、いったい何が起こったのか。最大の問題は、銀行間の信用供与が急激に縮小したことである。それによって一部の銀行は資金不足に陥った。つまり銀行の資金繰りがつかなくなったのだ。
世界各国の中央銀行は、この短期金融市場に巨額のマネーを流し込み、何とか苦しい銀行の資金繰りを支援した。銀行が資金調達できなくなった最大の理由は、資産の毀損(きそん)があったからだ。サブプライムローンの債権を含む金融商品が、もともとの住宅ローンの焦げ付きで「不良資産」になってしまった。どの銀行がどれくらいの不良資産を抱えているかがすぐに判明しなかったため、隣の銀行にも貸せないという事態になったのである。
先進国の金融機関、とくに米国と欧州の金融機関の「信用不安」が実体経済に大きな影響を及ぼした。当時、日本の首相は麻生氏だったが、こう言っていたものである。「日本の金融機関はサブプライムローンの金融商品をあまり持っていない。したがって影響は小さい」。確かにこの発言の前半部分は事実だった。しかし後半部分はとんでもない誤りだった。
金融機関の自己資本が毀損(きそん)して、銀行間の信用供与が細り、その結果、銀行は信用供与を縮小しなければならなくなった。日本はすでにバブルが崩壊したときに経験している。いわゆる「貸し渋り・貸し剥がし」である。それが世界規模で起きた。
そのときに大きな影響を受けたのが貿易だ。貿易は信用供与がなければできない。輸入する企業は取引銀行に頼んで相手方への支払いを保証してもらう。この信用供与が滞った。その結果、日本企業の輸出が止まったのである。だから例えば自動車メーカーは一時期半分以下に生産が落ちた。麻生首相の「影響は小さい」は結果的に大間違いだったわけだ。
もし米国債の債務不履行が現実のものになれば、リーマンショックよりもはるかに大きな影響が出るだろう。何せ、銀行にとって米国債は信用度が高く安定して運用できる資産だ。それが不履行になって価格が急落すれば、多くの銀行で評価損が発生する。
米国債のデフォルトを防ぐには、米政府の債務上限額を引き上げることが求められる。IMF(国際通貨基金)のラガルド専務理事は、それが世界経済にとって「極めて重大な使命」であると語っている。
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