人のお宅を訪問すると、その家族の好みや暮らしぶり、考え方などがよく分かる。
最近になって発見したのは、しっかり者の女性の家に限って、居間などに500円玉貯金箱があることだ。そういう貯蓄方法が世間で流行っていることすら知らなかった私には、驚きの新発見だった。
私がなぜ驚いたか。それは500円玉を貯め続けて、30万円というお金を作ろうという考え方に対してである。つまり、30万円もの大金を貯金箱という利回りゼロの箱の中に置いておくのがもったいないと思ったからだ。あまりに原始的で悠長なお金の貯め方に、多くの人がハマっている現実にとても驚いたわけである。
500円玉貯金箱が流行っている理由は、500円玉というあらわな現金のまま貯めておくことが自分のモチベーションを高めるからだろうか? それならそれは銀貨の輝きの魔法だ。あるいは、いざというときに、すぐに使えるお金として身近に置いておきたいからか。いずれにしてもこれは投資機会の放棄であり、理解に苦しむ運用策である。
もしかしたら現金のまま貯めるということは、運用リスクを避けている結果なのだろうか? 現金で持つことの良さは投資リスクを負わないことだが、500円玉貯金には2つの大きなリスクがある。
その第1が盗難のリスク。泥棒に入られたら、その30万円がいっぺんで消えていく。これはひとつのマメ知識だが、火災保険についている盗難保障の上限は20万円だから、家の中に20万円以上の現金を置いておいてはいけないのだ。
そして、第2は物価上昇に負けてしまう目減りリスクだ。20世紀の日本では物価が年率5%で上昇していた。それに対して、銀行の普通預金の利回りは3%だった。つまり100万円で買えたものが物価の上昇によって、1年後には105万円になってしまう。普通預金に置いていても103万円にしかならないから、貯めておくだけで2万円分の損をしたことになる。もちろん現金のままなら、100万円はいつまで経っても永遠に100万円だ。
今の日本は長期デフレに陥っているので、目減りリスクには説得力がないかもしれないが、人類の歴史はインフレの歴史だった。いずれデフレからインフレへの転換点が必ず訪れる。人がインフレに気がついたときには相当目減りしてしまっていることになるだろう。デフレの今こそ物価上昇に負けないお金の「置き場所」を作っておかねばならない。
現金や預金は、そのままで置いておく金額の上限を定めておいて、その上限額を上回ったら自動的にもう少し利回りの高い「置き場所」に移動することが賢明である。それが一番簡単な資産運用の第一歩。デフレに馴染んだ堅守の方法をできるだけ早い時期に捨てたほうがいい。
人の家に行って気になることが、もうひとつある。それは玄関が汚い家は「幸が小さい」ということだ。玄関が散らかっていると、福の神が家の中にまで入ってくることができないのだ。
資産家のお宅を訪問すると玄関が広く感じられるのは、もともとの物理的な広さにあるのではなく、きちんと整理整頓されているので広く感じるのだ。福の神を呼び込む玄関だけでも毎日、片付けておきたい。
(つづく)
北川邦弘
ファイナンシャルドクター。北海道出身、1957年生まれ。早稲田大学政経学部卒業。
総合商社勤務の後に不動産デベロッパーに20年勤務。バブル期に100億円近い債務を背負い、自宅は競売に付され預貯金も差し押さえられる。職までも失うが、友人たちの応援を受けて2002年にライフデザインシステム株式会社を設立し、新たにファイナンシャルドクターとして個人の資産運用を啓蒙する仕事で再起を遂げた。
すべての体験を糧に、100歳までたくましく生き抜く人生戦略(定年までに1億円を作るプロジェクト)の普及に取り組んでいる。早稲田大学エクステンションセンターで人気講座「心豊かに生きるためのお金のお話」を9年間連続開講中。また、オールアバウトで資産運用のプロとして「大人のお金トレーニング講座」を連載中。CFP(上級ファイナンシャルプランナー)取得者。
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