「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”」
中国が金融リスクを抱えていることは先週述べたが、一方で世界経済が抱えるもう1つのリスク、欧州の金融リスクはどうなっているのか。距離的には遠い欧州のリスクとはいえ、金融問題が発生すれば、たちまち日本へ影響が広がる。銀行間の信用供与が急激に縮小すれば、それは貿易金融などを通じて実体経済に負の影響をもたらすからだ。
2008年のリーマンショックのときも、日本の金融機関はサブプライムローンに絡む金融商品をそれほど保有していなかったが、リーマンショック後に世界の貿易は急減し、2009年にはほぼ半減となった時期もあった。その意味では欧州で再び金融危機が起これば、中国の金融危機と同じように、日本は蚊帳の外というわけにはいかない。
欧州が抱えている火種は、分かりやすく言ってしまえば「ゾンビ(死に体)銀行の処理」である。ゾンビ銀行ができたのはイギリスやスペインのような住宅バブル、さらには2008年のショック後に各国政府が景気を支えるために大幅に財政支出を増やしたためだ。
ECB(欧州中央銀行)は、2014年からユーロ圏の銀行を一元管理するようになった。これまで、銀行はそれぞれ自国の中央銀行が管理していたが、銀行が問題を抱えたときにどのような救済策があるか、救済する基準はどうするのか、といった問題を巡って対応がバラバラになることがあった。それを一元管理するいわゆる“銀行同盟”だ。銀行救済も一元的に実行することにして、一応ユーロ圏各国で相応の負担をすることになった。
というわけで、2014年はユーロ圏銀行の検査を行うことになるのだが、問題はここからだ。もし検査で自己資本が足りない銀行が出てきたらどうするのか。方法は次の3つが考えられる。
とはいえ、それぞれの国にとっては自国の銀行を潰したり、他国の銀行に吸収させるという選択は難しい。その銀行に預金している人々は猛反発するだろうし、場合によっては社会不安にも発展しかねない。
そのため、実質的に資本注入しか選択肢はないのだが、一体誰が資金を出すのか。ソブリンリスク(国家に対する信用リスク)が発生する前だったら、国が債券を発行して資金を調達し、それを銀行に注入するという可能性もあっただろう。しかし、すでに各銀行は国の債券を大量に保有している(国に銀行が金を貸している)。銀行に資本注入するのに、さらに銀行から金を借りるのはおかしな話だ。そうなると、ECBが銀行から国債を買い取り、銀行が国に資金を融通する余裕を与えるという方法を取ることになる。
だが、ECBは1つでもユーロ圏の政府は1つではない。財政はそれぞれの国の責任で運営され、税収で足りない分はそれぞれの国が債券を発行して調達している(もちろん金利もプレミアムという形でそれぞれの国に見合った利息を投資家から要求される)。すると当然、経済の強い国と弱い国の間に軋轢(あつれき)が生まれる。
強い国の代表であるドイツは、2013年にキリスト教民主同盟と社会民主党で大連立政権が成立した。以前のメルケル政権よりも、弱小国に融和的な姿勢に変化することが予想されるが、財政状況が悪い国に対する支援政策は国民の支持を得にくい。
建前はともかく他国を支援するというのは、そう簡単なことではないのだ。本来、ユーロ圏が1つの通貨で運営されるなら、ユーロ圏全体が1つの国のように運営されなければならないはずだ。1つの財政、1つの中央銀行、そして地方(個々の国)への富の再配分制度が必要だ。日本でいえば地方交付税交付金が再配分制度を支えており、東京都にも豊かな区とそうでない区の税収を再配分する制度がある。
通貨の統一、銀行制度の統一まではメドが立ったが、ここから財政の統一、さらには富の再配分まで完成させるには時間がかかる。その間にゾンビ銀行に取り付け騒ぎでも起きれば、再び世界の金融がシステミックリスクに翻弄されることになりかねない。
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