映像配信サービスで救われた命女神的リーダーシップ(5/6 ページ)

» 2014年01月17日 08時00分 公開
[ジョン・ガーズマ、マイケル・ダントニオ,Business Media 誠]

仲間の誰かがノーベル賞をとればいい

 わたしたちは、ベルリンのごくありふれたオフィスビルにあるリサーチゲート本社にマディシュを訪ねた。旧東ベルリンに属するこの地区は家賃が安く、スペースは十分にある。同じビルには創業まもない企業が数多く入居し、新しいアイデアをかたちにしようと懸命に働くエネルギッシュな若者たちで溢れていた。リサーチゲートは、首尾よく資金調達をした直後だったため、数フロアを占めて従業員数も70人を超えるまでになっていた。シリコンバレーの新興企業にならい、全従業員に自社株を付与し、働きやすい環境づくりの一環として職場にスナック、飲み物、息抜き用の玩具などを用意している。

 わたしたちが取材に訪れた日、マディシュはデスクからデスクへとせわしなく動き回り、200万人のメンバーが情報交換する様子をうかがっていた。熱中するあまり、わたしたちとの約束は忘れていたが、すぐに思い出して長時間におよぶインタビューに応じてくれた。わたしたちの最初の質問は、マディシュが構想する「賢い人脈づくり」が「愚かな人脈づくり」とどう違うのか、というものだった。

 「愚かな人脈づくりとは、交流イベントに参加するような、無意味な行いを指します」と容赦ない答え。「そういったイベントに来るのは、人脈に乏しい人たちだけでしょう。すでに十分な人脈を持つ人は、参加する必要などないですし、忙しいですから」

 他方、賢い人脈づくりは、「価値ある何かを創造して、それによって人々を引き付ける」ことで実現するという。科学分野の研究者にとっては文字通り「時は金なり」で、人脈があれば多大な時間を節約できる。「わたしは、課題の解決に足踏みするといつも人脈を頼りました。1人で4、5カ月も悪戦苦闘するよりも、解決策を知っていて数時間で説明してくれるような人を探すわけです」

 マディシュは自身の体験をもとに、フェイスブックを洗練させたような科学者向けの交流サイトを設け、具体的な研究課題について次々とコミュニケーションの輪を広げる構想を立てた。さまざまな専門領域から多彩なスキルを持った人々が集まって、通常は素通りするような課題を考える場になれば理想的である。こうして、ウェブ開発者の助けを借りて生まれたのがリサーチゲートである。このサイトでは、彼が望んだ研究者どうしの結びつきや相互交流すべてが可能であり、何百万件ものニュース、ブログ、記事・論文などがアーカイブされている。大学、病院、研究所などに属するメンバーが200カ国から集まり、本名と連絡先を登録している。メンバーはまた、学歴、職歴、興味関心、研究成果など、詳しい自己紹介を載せている。これらのデータは、疑問に答えてくれそうな人や団体を探り当てるのに役立つ。

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