米国は「ジャガイモ外交」!? 各国首脳の「贈り物」が面白い伊吹太歩の時事日想(2/2 ページ)

» 2014年01月23日 08時00分 公開
[伊吹太歩,Business Media 誠]
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プーチンの愛犬は秋田県からの贈り物

 では米国以外の国家間ではどんなやり取りがあるのか。イスラム武装勢力と戦っていたマリ政府は2013年、戦闘に協力したフランス政府に感謝の意味を込めてラクダをプレゼントした。フランス側は持ち帰れないためにマリ国内にそのラクダを置いていたが、地元民が間違って食べてしまうなんていう騒動があった。

 また、ロシアのウラジミール・プーチン大統領は日本の秋田県から「秋田犬」を、ブルガリアからはブルガリアン・シェパードを贈られた。2013年4月には大きくなった両犬と雪の中で戯れるプーチンの姿が公表されている。

 中には恐ろしくメッセージ性の強いギフトもある。ドナルド・ラムズフェルド元国防長官がまだ若いころに特使としてイラムのサダム・フセインに会った際のエピソードだ。フセインはラムズフェルドに、敵対関係にあった当時のシリア大統領、ハフェズ・アサドの残忍さを収めたビデオを贈呈した。かなりショッキングなビデオで、メッセージ性の強いギフト(参照リンク、閲覧注意)だった。

 誰でも贈り物をされて嫌な気はしないものだが、「タダより怖いものはない」というのは外交の世界こそもっとも顕著なのかもしれない。外交の世界では、ギフトなどの慣例が悪用されるケースも少なくないからだ。

 ギフトというほどのものではないが、2013年9月にロシアのサンクトペテルブルクで行われた20カ国・地域(G20)首脳会合のサミットにからんで、とんでもない話が浮上している。

USBメモリのプレゼントは疑うべきアイテム

 読者のみなさんも、企業の発表会や会議などで、主催者側が用意したロゴつきのノートやペンなどをもらった経験があるだろう。G20でも、すべての参加国の代表団にちょっとした便利グッズのようなものが配布されていた。その中に「ロシアG20」とロゴの付いたUSBメモリが含まれていた。

 セキュリティ関係者らに言わせれば、USBメモリというデバイスは怪しい。そこからウイルスに感染し、結果的に情報が盗まれたり、ハッキングされる可能性があるからだ。実際に2009年に発生したイランの核施設で遠心分離機の1割が破壊された事件は、米国とイスラエルが開発したとされるウイルス「スタックスネット(Stuxnet)」が攻撃を行った(参考記事)。そのウイルス感染経路は、関係者が持ち込んだUSBメモリによってだったとの見方が強い。

 特にセンシティブな情報を扱う人は、プレゼントしてくれる相手によっては、こうした記憶装置は怪しいと思ったほうがいい。G20に参加したヘルマン・ヴァン=ロンプイ欧州理事会議長はやはりそのUSBメモリを怪しいと思い、ベルギーとドイツの専門家に調べさせたという。するとこのUSBにウイルスが組み込まれており、ロシア側が高官らから情報を盗みとろうとしていた疑いが濃厚になったのだ(ちなみに安倍首相や日本政府関係者も出席していたが、まさか普通に使っていないと思いたい)。

 ただこうしたギフトを使ったスパイ活動は、なにも今に始まったことではない。冷戦時代の1945年にも、ロシア(当時はソ連)は似たような手口でスパイ行為を企てていたことが明らかになっている。

 当時の駐ソ米国大使に木彫の米国章レプリカが贈られた。その中に仕込まれていた盗撮用マイクに米国側が気付いたのは実に6年も後のことで、その間この木製の国章はずっとモスクワの米大使館に飾られていた。つまりロシア当局によって米国大使館は6年にわたり盗聴されていたのだった。

オバマ大統領はグリーン上でパターを使えたのだろうか?

 こうした過去の苦い経験からなのかは分からないが、オバマなどに送られた贈り物は政府が保管する。韓国が贈ったサムソンの電化製品も、国立公文書記録管理局の倉庫かどこかで埃をかぶっていることだろう。

 米国だって似たようなスパイ工作をしており、他国のことは言えない。米国家安全保障局(NSA)のスパイ行為は、ロシアによる米国章による盗聴や、G20でUSBに何かを埋め込むというのとはレベルが違う大掛かりなものだ。

 ジャガイモはロシアとの関係を一瞬とはいえ和ませた。でも、NSAの盗聴やメール監視は世界中でいまだに物議を醸しており、特に欧州の国々は米国を警戒している。アイダホのジャガイモ程度のギフトでは、彼らを和ませることは到底できないだろう。

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