こうした目黒区立第一中学校の取り組みも「“研究”の域を脱していない」(目黒区教育委員会 教育指導課長 佐伯英徳氏)のが現状だ。事実、2012〜2016年度の5年間において、目黒区の学校設備に使う予算に「インターネットへの無線接続環境は入っていない」(佐伯氏)という。これも実証実験の結果を受けて検討するという程度で、実施のメドは立っていない。
IT授業を実施するには、インターネット回線の設置、電子黒板の用意、教員のITスキル育成などさまざまな壁がある。導入まで時間もかかるし、金銭面の負担も大きい。同校に導入されたマシンは、NEC製のタブレット「VersaPro J タイプVT」だ。2013年8月に発表した製品だが、価格は専用キーボードと合わせて9万円程度となる(Officeなしの価格、入れると12万円弱になる)。導入したのは70台なので、単純に計算しても630万円だ。これだけの初期費用を自治体が用意できるかがまず課題で、通信手段や整備のためのコストも発生する。もちろん、生徒の家庭に必要教材として購入してもらうにもやや無理がある。
本プロジェクト全体をコーディネートする日本マイクロソフトの中川哲 業務執行役員 文教本部長は、IT授業の普及について「導入の最終的な判断は、やはり費用対効果で見られてしまう。現時点では効果のほどは不透明なものだが、明確な効果を示せれば判断の材料になる」とし、まずは効果の実証がカギという考えを示した。
とはいえ、タブレットの中には1万円台の低価格なAndroidタブレットや、知名度の高いiPadシリーズなどもある。導入コストが課題なら、より安い機器のほうがよいのでは。タブレットを提供したNECに聞くと「授業で生徒が使うタブレットとなると、現状ではほぼWindows一択」という答えが返ってきた。
授業で高価なWindowsタブレットを使う理由――それは何か。「タブレットを使った授業では、みんなで同じ画面を共有するといったシーンがある。ここでスムーズに動かないと授業の遅れにつながってしまう。機器も周辺の環境も、企業PC導入のノウハウを生かしつつ、それより高いレベルでそれぞれ同じコンディションで提供する必要がある。もちろんコストは課題だが、実証実験を重ねた中で、教育関係者も“安かろう”だけではダメという風潮が広まりつつある」(NECコーポレートコミュニケーション部江澤氏)
同日行われた模擬授業では、1人1台ずつ割り当てられたタブレットに解答を書き込むと電子黒板に同時に表示されたり、1枚の白地図に全員で同時にマークをつけて、リアルタイムで反映されるなど、生徒同士で情報を発信、共有する機能を紹介していた。法人向けで実績のあるWindowsマシンと、その連携ソリューションをうまく教育分野にも応用すべく、端末はWindowsマシンが好ましいということだろう。
現時点では高いというコストも「学校での導入が進めば、パッケージが標準化されて安くなる」と江澤氏は見込む。「文部科学省も2020年までには、1人1台タブレットという環境を実現する、と目標を立てた。われわれとしては、そのための予算を取ってくれることを前提に準備を進めている」(江澤氏)
日本マイクロソフトの中川氏も、IT授業の普及には、国のバックアップが不可欠だとする。「確かにデバイスの価格が高いという意見はあると思う。教育機関向けに端末を安く提供するなど、それを下げる努力も必要だ。しかし、その議論だけではアンフェア。国が税金をどこに使うかということも重要だ。医療や福祉に使うのも大切だが、未来を担う子どもたちに税金をちゃんと回してくれるのか。これがなければ、ITを活用した授業は実現しない」(日本マイクロソフトの中川氏)
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