鈴木: 2つめは事業者側の問題です。先ほど言ったように、2000年代に急速にIT化が進んだことで、多くの事業者で業務の電子化や自動化が急激に進みました。この電子化や自動化は1980年代から2000年代前半にかけて行われていましたが、IT活用における“第1の壁”と呼んでいます。今やこの壁を越えた企業がほとんど。ITが関係しない業務なんてもうないですよね。投資が一巡したとも言えるのです。
すると、ITベンダーやSIer(システムインテグレーター)はこれまでと同じような仕事がなくなってしまいますから、新しい価値を提供する必要に迫られています。その1つがデータの活用でしょう。第1の壁が電子化・自動化とすると、この「データから事業に役立つ付加価値の導出」を第2の壁と読んでいます。
営業日報を電子化できたとしても、電子化で営業の空振りがなくなるわけではありません。電子化そのものと、それがビジネスに貢献するかは別の話ですよね。現状では、電子化は終わっていても、ビジネスに活用できていない企業がほとんどです。
この第2の壁を越える有力な方法として「ビッグデータの生かし方」に注目が集まっているわけです。現在データ活用において優等生と言われている企業は、この壁を越えたところにいるのです。ビッグデータをレコメンドの精度向上に役立てているAmazon、在庫予測調査や消費者調査に生かしているウォルマートなどが代表的な例ですね。
池田: なるほど、3つ目の要因は何でしょう?
鈴木: 最後は技術的な側面です。ビッグデータを分析するツール、ストレージ、ミドルウェアのコストが低くなったことが大きいです。例えば「ちょっと社内でたまったデータを分析してみようかな」と考えたときに、ストレージを買って、ソフトを買って、システムを構築して――ひとまずお試しするのに2億円です、となったら「ちょっと待て」となりますね。
一方、ハードウェアに投資せずともできますよ、という話になれば、データ分析を試そうという機運も高まる。データ活用はトライアンドエラーの連続なので、コストが安いということは無視できない要素です。仮説に基づく試行錯誤を繰り返す中で、目に見える効果が出れば投資をしよう、ということにもなる。それによって今後、データ活用への予算も徐々に増えてくることが期待されます。
こうした3つの理由から、ビッグデータ活用が多くの人から注目されています。今では広告代理店とかSIerとかサポートする側の人もみんな口をそろえて“ビッグデータ活用”と叫んでいますね。とはいえ、SIerはこれからビッグデータ活用にどう貢献できるのかが問題になるとは思います。
池田: どういうことですか?
鈴木: SIerにとって、これまで行ってきた「電子化・自動化の支援」と「データ活用の支援」はまったく異なる業務と言えます。先ほど言ったように、データ分析には試行錯誤のプロセスが省けません。これまでのような「人×時間×工数」といった見積もりとの相性は悪いでしょう。クライアント側も、ビッグデータを活用する目的から分からないというパターンも多いので、そこから付き合わないといけない。顧客とのコミュニケーションのあり方も変わってくるはずです。
池田: 企業は仕事の変化にも対応しなければならないというわけですね。本日はどうもありがとうございました。
「ビッグデータ? とりあえず大量に集めたデータを生かす、って感じだよな?」
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