娯楽映画の鉄道映像資料という意味でオススメしたい映画は『家族』(1970年制作)だ。井川比佐志と倍賞千恵子が夫婦役を演じる。新天地で再起を図ろうと、長崎県伊王島から北海道中標津まで鉄道で引っ越す家族の物語だ。この中で、大阪万博と北大阪急行電鉄の万国博中央口駅が登場する。北大阪急行電鉄は現在もあるけれど、万国博中央口駅は万博終了とともに廃止となった。現在は高速道路の料金所になっている。
北大阪急行電鉄は日本で最も初乗り運賃が安い会社だ。その理由は、万博輸送の運賃収入で建設費の借金を全額返済してしまったから。北大阪急行電鉄はもともと万博輸送をきっかけに作られた鉄道会社だった。とはいえ、会期中の半年間で建設費のモトを取るなんて、いまでは考えられない偉業だ。
その偉業を果たした駅の映像が『家族』に残っている。「万博へ行った」という場面が必要なら、太陽の塔と周辺の賑わいだけでも十分だ。駅まではいらない。しかし鉄道好きの山田洋次監督は、「廃止される運命の駅を後世に残したい」と、資料価値を見越して撮ったのではないか。
最近の作品では、鉄道ファンだった森田芳光監督の遺作『僕達急行 A列車で行こう』に鉄道を含む情景が多い。主人公の引っ越し先を選ぶという場面にこじつけて、都内大手私鉄の電車がたくさん出てくる。この作品も、今後、20年、30年経つと資料的な価値が高くなるだろう。
娯楽映画に出てくる鉄道の場面は、何年か後に貴重な資料映像としての価値を持つ。鉄道考証が甘くても、後世において資料価値は高まるかもしれない。
でも現代を舞台にした作品ならば、やっぱり現代の鉄道をしっかり撮影したほうがいい。後世に恥ずかしくないし、資料価値も高まる。映像制作関係各位に、鉄道も時代考証なみの気配りをお願いしたい。
2014年9月6日より12月28日まで、埼玉県川口市の「SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ 映像ミュージアム」にて、『鉄道×映像』展が開催されます。
この中の「鉄道×映画 鉄道映画名作10選」の展示を杉山淳一氏が監修! 文中で取り上げた『大いなる驀進』ほか、9タイトルの鉄道映像作品を紹介しています。このほかにも「鉄道×映像の誕生 ラ・シオタ駅への列車の到着」「鉄道×データ あなたのICカード乗車券の記録を可視化」「鉄道×カメラワーク 鉄道思い出のぞき窓」など、鉄道の新しい魅力を発見できる展示もいろいろ。みなさん、ぜひ行きましょう。
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