渋谷―羽田アクセス線対決! 東急が「蒲蒲線」に前向きになった理由杉山淳一の時事日想(3/6 ページ)

» 2014年09月12日 08時00分 公開
[杉山淳一Business Media 誠]

東急と京急が及び腰だった理由

 「蒲蒲線」構想は、現在までに3回ほど内容が大きく変わっている。当初は、東急電鉄が運行主体となり、蒲田から延伸し、京急蒲田付近を通って、京急空港線の大鳥居駅を結ぶ計画だった。しかし、このプランは京急電鉄にとってメリットがほとんどない。東急やJRから空港線へ乗り換える乗客は増えるだろう。しかし、それ以上に、京急品川駅から羽田空港へ向かう乗客が減るかもしれない。いままでJR品川駅で乗り換えてくれた客が、蒲田までJRに乗ってしまうだろう。大田区が分断し、環状8号が混んでいるおかげで、大田区内の東急沿線の人々も、山手線経由で品川から京急に乗っていた。こうした「品川―羽田空港」の利用客が「大鳥居―羽田空港」に短縮されてしまう。

 そこで、大田区は京急電鉄に配慮した次のプランを作った。東急多摩川線の地下延伸区間は蒲田駅までとし、蒲田―大鳥居は京急電鉄が運行する。京急と東急は線路の規格が異なるので、蒲田地下駅の同じホームで列車を発着させて乗り換えを便利にする。少しでも京急の客を増やそうという計画だ。そして、蒲田駅で電車を降りる客がいれば、蒲田の街に立ち寄ってくれるかもしれない。大田区議会議員はみな大票田の蒲田を重視しているから、蒲田の利益は重要である。

 しかし、これでも京急は動かなかった。いや、東急側も運行路線が短くなってクールダウンしただろう。いや、どんな形になっても、東急と京急は積極的に関与しないという方針だった。理由は簡単だ。「積極的にやりたい」という態度を示せば「ぜひ建設費用負担をお願いします」となるからだ。蒲蒲線は費用負担の枠組みは決まっていない。大田区は上下分離方式を採用し「都市鉄道等利便増進法の適用」を想定している。この法律では、建設費用の3分の1を自治体が負担し、3分の1は国から補助金を得て、残り3分の1は線路保有会社が民間資本から借り入れる。東京都は関心が薄いようだから、自治体分の3分の1は大田区全額負担になりかねない。蒲蒲線の建設費は約1000億円。短い区間のため売り上げは少なく、費用対効果に批判も多い。だから、大田区としては負担を減らしたい。そこへ「やりたい」と手を挙げればどうなるか。「クチだけではなく、カネも出してね」となるわけだ。

photo 蒲蒲線計画の変遷(筆者作図)

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