ユーザー数4億7000万人を達成――10億人を目指す「LINE」なぜ人は“動く”のか(2/3 ページ)

» 2014年09月19日 07時00分 公開
[本田哲也, 田端信太郎,Business Media 誠]

Q:10億人を動かすために絶対必要な条件とは、いったい何でしょうか?

本田: いよいよLINEが来ました。これは田端さんにたっぷりお聞きしないと!

田端: うーん。確かにいろんな狙いや理由はあるんですが、自社のことだとしゃべりづらいなあ……。あと、この規模になってから理由を語ると後出しジャンケンみたいでちょっとカッコ悪い(笑)

本田: じゃあ、一般論から。10億人を動かす条件を見ていきましょうか。

田端: ありがとうございます(笑)。まず10億人ともなると、宗教やコミュニケーションといった人間なら誰しも持っている本能に訴えかけるという条件は外せなくなります。

本田: 国や人種の違いも飛び越えるユニバーサルな欲求にも応える必要も出てきます。

田端: 10億人が使っているモノはけっこうあると思うんですよ。ただ、その内訳を見ると、国や属性ごとにローカライズ(※2)されていて、1000万人規模×100カ国といったゲージで見るべき事象だったりする。

(※2)ローカライズ:製品やサービスを海外で販売するにあたって、その国の言語や法令、慣習に合うように製品の修正や改訂を行うこと。

本田: そういう意味でいうと、まさにLINEは興味深い。ローカライズはどの程度行われているんですか?

田端: ローカライズはスタンプくらいでしょうか。基本的なメニューは各国の言語に対応していますし、スタンプ以外は世界各国同じだと考えていただいていいと思います。

本田: 端末にあらかじめインストールされているアプリというわけでもないのに、ここまでユーザー数が伸びたのにはビックリしました。

田端: コミュニケーションアプリはユーザーが自ら広めてくれるという側面があります。ユーザーにとって、周囲に使っている人がいればいるほど便利になる。古くはファックスやメールもそうだったと思うんです。

本田: 自分だけがファックスやメールアドレスを持っていても、送る相手がいなければ、何の役にも立たない。

田端: ユーザー数が10倍になると、ユーザーメリットは100倍になるという研究報告もあります。ユーザー数がある程度増えると、後発サービスが「通話音質がいい」といった機能面でのメリットを提示しても、ひっくり返すのは難しくなる。

本田: TwitterにしろFacebookにしろ、最初は手動で登録しなくてはいけなかったのに、LINEは連絡先が自動的に入力されるという斬新な登録システムも衝撃的でした。

田端: 当初は賛否両論ありましたが、ユーザーが増えていくにつれて声高に「使いたくない」と言っていた人たちの声が小さくなる。

本田: 風向きというか、最初の壁はどのあたりにあるんでしょう。

田端: 実感値としては、各国の人口の5%を超えられるかどうか。このハードルを超えてしまえば、放っておいても増殖するモードに入ります。

本田: 「使うかどうか」を厳密に選定する段階から「使っているのが当たり前」に移行する、その分水嶺(れい)が5%のところにある、と。

田端: さらに、人口カバー率2割を超えると、「使っていないなんておかしい」に転じます。

本田: これまでもスカイプ(※3)やFacebookのメッセンジャーといったコミュニケーションアプリがあったなかで、ここまでLINEが伸びたのはなぜなんでしょうか。

田端: 従来のコミュニケーションアプリとは似て非なるものだったというのが大きいと思います。

(※3)スカイプ:マイクロソフト社が開発・公開したコミュニケーションアプリ。インターネットを通じて無料で音声通話やテレビ電話、文字によるチャットを行える。

本田: 機能としての違いはほとんどありませんよね。

田端: Facebookが典型ですが、従来のコミュニケーションアプリは基本的に言語能力に長けた、頭のいいエンジニアが考えたものであり、意味のある情報(インフォメーション)をやりとりするためのものでした。でも、LINEはよくも悪くも感情(エモーション)をやりとりするツールなんです。

本田: スタンプのことですか?

田端: スタンプの存在とバリエーションは大きいですね。言語を超えた微妙なニュアンスのやりとりができる。スタンプだけで延々会話できてしまいますからね。

本田: 感情を画像で表すというのも画期的でした。言葉は分からなくても、ニュアンスは伝わる。ビジュアルは軽々と国境を越えるんだなということを改めて感じました。

田端: じつは人と人とのコミュニケーションはくだらなくて、意味のないやりとりが大半を占めている。その点にフォーカスを当てたからこそ、ここまで急成長できたように思います。

本田: スタンプという「非言語」を取り入れたことで、言語の壁を越えることができた、と。

田端: スタンプって、じつはコミュニケーション論として深いものがあるんですよね。「日本のアニメは世界でも人気」というクールジャパンの文脈だけではありませんから。ただ、米国では立場のある大人ほど「スタンプを送るなんて子どもっぽい」と断じる傾向もある。それが今後、どう変わっていくのかは僕らも注目しています。

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