優等生の不良ごっこ? スポーツカー? 付加価値?――トヨタがG'sで狙うもの池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)

» 2015年02月27日 11時00分 公開
[池田直渡,Business Media 誠]
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G'sの戦略価値とは?

 こうして見ると「さすがトヨタ」と言わざるを得ない。安価な部材を使い、最小限の追加部品と作業で、最もボディ強化に効きそうな部分をしっかり押さえてある。

 そして何よりも「SPORTSCARS for ALL」を課題として与えられた時に「フレームの強化をしよう」と考える生真面目さは評価したいし、ユーザーにも評価して欲しい。コンセプトも対策も大真面目だ。

 トヨタはG'sを真面目なファインチューンとしてもっと推すべきである。何故ノーズのトヨタエンブレムを取るのかも理解できない。真面目なコンセプトに沿って真面目な仕事をしたのだから、胸を張ってトヨタエンブレムを付けるべきではないか?  こういうクルマを作れることも、トヨタのひとつの側面なのだから。

 仮にそうしてG'sの本領が認められた時、問題になるのはあの外観だ。おそらく「ボディ補強とサスチューンは魅力的だが、センスの合わないドレスアップは勘弁してほしい」という声が出るだろう。正しいファインチューンをローコストでコツコツとするエンジニアがいて、それを評価できる客がいる。どう考えてもどちらも真面目な人だ。

 何故トヨタはそれをやらないか? ここから先は筆者の想像だ。ファインチューンと言えば聞こえがいいが、意地悪な見方をすればマッチポンプである。トヨタは自社製品シャシーのどこがどう足りないかをよく分かっていて、効率良く改善する方法も持っている。「それならなぜそれを、全部のクルマにやらないのだ」という話になるからだ。

 とはいえ、トヨタの言い分も想像は付く。シャシー剛性を改善したことに気づく客と気付かない客を比べれば、気付かない、あるいは気にしない客が圧倒的に多いだろう。

 シャシー剛性は、例えて言えばボールペンの芯だ。軸がガタガタするボールペンは書きにくい。だからブレないようにしっかりさせれば、思うように気持ちよく字が書ける。しかしそのためにはお金がかかる。「ガタガタでも気にしないから安く」というニーズもまたあるのだ。

 しかし、シャシーの剛性が生む運転の安心感は、生活道路を走っていても、高速道路を制限速度で走っていても実感できる。速度と場面に関わらず恩恵がある素晴らしい性能アップ、真面目な改善なのだ。

トヨタはG'sをどうしたいのか

 さて、このG's。一定以上の支持を受けているようだ。例えばG'sアクアは、デビュー以来月販1000台規模で売れているらしい。完成車を後から加工していたのでは到底間に合わないから、最初から組み立てラインで作られているという。そうなると、チューニングカーや改造車という表現は少し微妙で、もはやアクアのバリエーションと考える方が自然だろう。

G'sアクア

 トヨタはG'sを育てていくつもりだと思う。そうやってどんどん普通のカタログモデルとしての認識を高めて行くのではないだろうか。アクアは最廉価モデルで176万円。特装車を除く最高グレードで204万円だが、G'sは238万円と価格も飛びぬけている。ノーマルに対して34〜62万円も高いのだ。

 価格競争力の高いクルマでシェアNo.1を取りに行くのもトヨタの使命かもしれないが、一方でより付加価値を高めたクルマで利益を確保していくことも、企業としては必要なことだ。

 ドレスアップ部品を除外してしまったら、売価と一緒に利益率が落ちてしまうかも知れないが、本当にクルマとしての本質が良いクルマであれば、何もそんな厚化粧装備をする必要はない。

 聞くところによればCVTも随分改善されたらしい。やり残したままになっている電動パワステのセッティングを、強化されたフレームに合わせてちゃんとやり直せば今までトヨタのクルマが心に響かなかった層にアプローチできるのではないか。そうした本質部分を磨きあげる作業をコツコツと積み上げて行けば、トヨタのイメージの枠組みを広げてくれる可能性がG'sにはあると思うのだ。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。

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