ものづくりの原点は「人」――ASUSジョニー・シー会長インタビューカフェから世界へ(3/4 ページ)

» 2015年02月28日 06時50分 公開
[渡辺まりか,Business Media 誠]

ものづくりの原点は“Start with people”(人ありき)

 26年前、わずか5人でスタートした会社がなぜここまで大きく成長したのだろうか。また、マザーボードやPCを開発していたのに、どのような経緯でスマートフォンなど通信の分野をも手がけるようになったのだろうか。

 前出の内容を受けて、「われわれの前には幾つものターニングポイントがありました。そしてその時々に正しい方向を選択し続けた結果、今があると考えています」とシー氏は語る。

 「でも」と言葉を続けた。「ものづくりの際には常に“Start with People.”(人ありき)を原点にしています。1つはユーザーのため、そしてもう1つは社員のためです。会社が成長し、社員が増えてくると、会社の責任は増してきます。より多くの人を養わなければならないからです。そうすると、事業分野を広げる必要が出てきます。良い企業というものは進化し続けなければならず、そうしなければ淘汰されてしまうからです」

 さらに、「ユーザーのことを考えた製品づくりをしていくと、“Design Thinking”(デザイン思考)、“In Search Of Incredible”(想像を超えたその先への挑戦)という発想になってきます。これは、技術者の作りたいものを作るのではなく、よりユーザーの所有欲を満たし、さらに使いやすいと感じてもらえるものを作ることにつながっていきます」と話す。例に挙げたのがSIMロックフリー端末として人気の「ZenFone 5」だ(参考記事)

LTEスマートフォン「ZenFone 5」。背面は持ったとき手にフィットするラウンド形状で、片手でもしっかりホールドできる。背面カバーを取り外すと、SIMスロットとmicroSDスロットが現れる

 「厚み5.5ミリを超え、背面がラウンドしていないものだと手にしたときのフィット感や収まりが悪いのです。でもその2つの要素を含んだデザインを優先させてしまうと、積めるバッテリーの容量が減ってしまいスマホとしての使い勝手が損なわれる。使いやすいデザインも、スマホ本来の使い勝手もユーザーにとっては大切なことです。そこで考え出されたのが、バッテリーを背面カバー付近ではなく、もう一段階液晶の近くに配置すること。そしてバッテリーとカバーの間にSIMカードスロットを配置しました。SIMカードスロットはバッテリーより小さいので湾曲する背面の隙間に収めることができます。しかもこの端末はデュアルSIMスロットですよ(笑)」(シー氏)。

 このように、使う人のことをまず考え、そこから使いやすいデザインを導き出し、実現不可と思えても実現のために挑戦していくことで優れたプロダクトを生み出してきたのがASUSTeK Computerなのだ。

 さらに、それを実現可能にしてきたもの、支えてきたものがある。それは「コンピューティングに必要不可欠な、つまりコアな部分であるマザーボードを作る確かな技術です」(シー氏)。

 「このコアテクノロジーがあったからこそ、ノートPCでもタブレットでもスマートフォンでも開発できたのです。以前と違い、現在ではコンシューマーが必要としている多くのプロダクトはデジタル化し、コンピューティングの技術が必要になってきました。もともとマザーボードメーカーとして技術力があったASUSにとって、これも追い風となりました」

 人を起点としたものづくり、確かな技術力、時代の流れ――小さなカフェでわずか5人から始まったプロジェクトが、台湾、中国、米国、シンガポール、日本など、世界各地に社員数1万2000人を抱える大企業にまで成長したのには、単なる「はやり」などではないしっかりとした裏付けがあった。

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