高齢化社会の到来で、クルマに必要になる“福祉“の視点とは?池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)

» 2015年05月25日 09時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

福祉車両の問題点

 福祉車両と聞いて一番最初にイメージするのは、車椅子で乗車できるクルマだろう。スロープを装備して車椅子を介助者の手で、もしくは電動ウィンチなどで車内に引き込む機能がついているモデルだ。あるいは、いわゆるリフト式シートに車椅子から移乗(乗り換え)して乗車するタイプも多い。

 この2つの方式を比べてみると、それぞれに一長一短がある。実は一般に車椅子の着座姿勢は車両用のシートとしてはあまり向かない。背もたれも座面ももっと後傾していないとブレーキによる減速時に体勢が維持しにくい。ましてや脚を踏ん張ることが難しい人が多いのだから、常に前のめりになってシートベルトで拘束されている状態になる。もちろんシートベルトの機能も本来はシートの機能と一体になって働くものなので、着座姿勢が悪ければ事故の際の身体保持機能に心配が残る。下の「ウェルチェア」の写真で座面の傾きを比べると分かるが、傾きが大きければ大きいほど衝突時の身体が前に投げ出されるエネルギーを座面で受け止めることができる。座面が水平ならほぼ全てのエネルギーをシートベルトで支えなければならない。

 さらに窓の高さと顔の高さが合わないので、せっかくの外出なのに景色を楽しむことができず、圧迫感も大きい。着座位置が高いので遠心力の影響を受けやすく、乗り心地が悪くなり酔いやすい。移乗が無い分、乗車と降車がシームレスな利点はあるが、運んでいるのがモノではなく人である以上「積めさえすればなんでもいい」というわけにはいかないのである。われわれだって、クルマを選ぶ時シートの座り心地は必ずチェックするはず。車椅子だって乗り心地は大事なのだ。

トヨタが開発した車椅子「ウェルチェア」。車椅子として使うシーンでは背もたれを立て、乗車時には背もたれを寝かすと共に座面を後ろ下がりにして、ブレーキ時の身体維持をサポートする。また他のシートの乗員と目の高さを合わせることで、自然なコミュニケーションが図れ、窓からの景色も同じように見ることができる

 そういった意味ではリフト式のシートの方が乗車用シートとして優れているのだが(もちろんシートの設計の良し悪しによる)、上述の通り、リフト式シートの場合、乗り降りの際に必ず移乗しなくてはならない。これは介助者にとってかなりの力仕事になる。また車椅子の収容方法を別途考えなくてはならない。車椅子はいざクルマに積んでみると意外にかさばるし重い。何を犠牲にしてどこに収納スペースを用意するか、そして誰もが(場合によっては本人が)簡単な操作でその積み下ろしが行えなければ使い勝手が悪い。

 家族構成によっては車椅子のためにリアシートを外してしまうわけにはいかないとか、利用頻度と障害程度との兼ね合いでリフトシートまでは必要とせず、回転シート程度で十分というケースもあるだろう。これらの問題は全てとは言い難いまでも、いくつかの車種では軽減されつつある。特にトヨタの福祉車両「ウェルキャブシリーズ」は、バリエーションでも機能でも、現在他社を引き離して頑張っていると筆者は思っている。

ベストセラーカーの一台、トヨタ・ノアをベースとしたウェルキャブモデル。助手席リフト、セカンドシートリフト、車椅子スロープの3タイプから選べる
トヨタ・カローラ・フィールダーなどに装着可能なリモコン付き電動ウィンチ搭載の車椅子収容ルーフキャリア。室内空間を損なわずに車椅子を収納できる

 Bセグメントハッチバックなら、ヴィッツ、アクア、ポルテ、ラクティスなど。Cセグメントなら、プリウスやカローラ・アクシオ、プレミオなど。ミニバンはサイズごとに小はシエンタやウィッシュ、中はノア、エスティマ、大はアルファードやハイエースまで、スポーツモデルでもない限り自分の好みのクルマ33車種から選べる。これはユーザーがお金を出して買う商品として極めて重要なことだ。早晩他社もこうしたラインナップの充実に追従することになると予想しているし、ぜひそうなってほしい。

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