ヒットの香りがプンプン漂う「ザ・トースター」は、どのようにして完成したのか水曜インタビュー劇場(トースター公演)(6/7 ページ)

» 2015年07月01日 08時00分 公開
[土肥義則ITmedia]

修正、修正、また修正

土肥: 修正、修正、また修正なわけですね。技術確立のときに「この部品に決めた」としていても、量産確立のときに「この部品ありませーん」といったこともあるのですか?

寺尾: ありますね。そうなると「他の部品を買えればいいや」で終わり、と思われていませんか?

土肥: えっ、違うのですか?

寺尾: ひとつの部品を変えることになれば、関係する部品も変更しなければいけないことが多いんです。それだけではありません。また、イチから検証しなければいけません。本当に安全なのか、本当に品質はいいのか、本当に使っていて壊れないのか、など。それだけではりません。

土肥: ま、まだあるのですか。

寺尾: 取扱説明書も変えなければいけません。このほかにも変更しなければいけないことはたくさんあります。なので、ひとつの部品を変更することで、ものすごい量の作業が発生するんですよ。

土肥: 話を聞いてるだけで、気が遠くなりますね。

寺尾: この世界に入るのは止めたほうがいいですよ(苦笑)。

土肥: ははは。

寺尾: 先ほども申し上げましたが、商品開発をしているときは、毎日のように「もうダメだ」と思っています。じゃあ、どうやってゴールまで辿(たど)り着けるのかというと、「絶対にゴールのテープを切りたい」という強い思いだけなんです。でないと、妥協が生まれてしまう。例えば、「この機能とっちゃえ」となる。「商品の魅力を落とす」という逃げ道もある。でも、それではダメ。最初に決めたコンセプトからブレては、絶対にいけません。

土肥: でも、どーしてもうまくいかなくて、ある機能を搭載することができなくなった場合はどうするのですか。すいません、なんだか小学生のような質問で(汗)。

寺尾: 代替案を考えたり、設計を見直したりしますが、最終的には「体験」なんです。冒頭にもお話ししましたが、当社は「体験」を提供しています。ザ・トースターの場合は「世界一おいしいトーストを再現させること」なので、この部分がブレてはいけません。途中で行き詰って、倒れていく商品というのは「コンセプトが実現できない」と判断したとき。そのときは、潔く撤退しなければいけません。

 こんな話をしていると、失敗ばかりして、損ばかりしている会社かと思われるかもしれませんが、チャレンジすることが大切だと思っています。チャレンジして「体験を提供しよう」という気持ちがあれば、たくさんの企画が出てきて、実験を始めることができます。チャレンジすることを禁止すると、企画が出てこないでしょう。そうなれば、みなさんに体験を提供することができなくなる。失敗をしているから、損をしているから……だからこそ新しい体験を提供できているのかなあと思っています。

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