青春18きっぷ、特例を廃止して値下げしないか杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)

» 2015年07月24日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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青春18きっぷの存在価値

 ただし、この報道は良いニュースとも言える。JRグループは青函トンネル問題について、2015年末に結論を出すというけれど、その前提は青春18きっぷの存続だ。JRグループは青春18きっぷをやめるつもりはなさそうである。

 青春18きっぷは長期的に見て、日本の鉄道旅行の人口を増やすキーアイテムだ。もはや「鉄道旅行好きな人のファンサービス」や「ビンボー旅行のアイテム」だけではない。JRグループの収入源という考え方も短期的な見通しにすぎない。

 例えるなら「マイカーすごろく」「住宅すごろく」である。マイカーは、軽自動車やリッターカーからスタート。トヨタで言えば、かつては大衆車「カローラ」、ワンクラス上の「マークII」を経由して「クラウン」で上がり、という出世の筋道があった。住宅でいえば、アパートから始まり、賃貸マンション、分譲マンションを経由して、一戸建てで上がり、である。

 価値観の多様化によって、マイカーや住宅のすごろくは廃れつつあるけれど、このようなステップアップは鉄道の旅にもあるはずだ。1日乗車券、青春18きっぷの旅を経験して鉄道の旅の良さを知ってもらい、やがて新幹線や特急列車を乗りこなして、ゴールは「ななつ星in九州」(関連記事)や今後登場する「トワイライトエクスプレス瑞風」「トランスイート四季島」などの高級クルーズトレインへつながっていく。

特例をすべて廃止し値下げせよ

 青春18きっぷが鉄道旅行市場にもたらす役割は大きい。国鉄が作った最高の発明といえる。それなら、複雑なルールで初心者を遠ざけてはいけない。青春18きっぷは当初の「JRの普通列車限定きっぷ」に戻し、すべての特例を廃止したほうがスッキリする。新幹線はダメ。特急・急行もダメ。並行在来線通過利用もダメ。とにかくJRだけ、普通列車・快速列車だけ。分かりやすい。

 料金は税込み1万円ピッタリに値下げする。新幹線の開業などでJRの在来線は減っている。利用可能区間が狭くなったから、今までと同じ値段というわけにはいかない。値下げがスジだ。

 その上で、青春18きっぷと同時購入の場合に限定してオプションきっぷを販売する。同時購入に限定する理由は、転売を防ぐ効果を期待するからだ。並行在来線の第3セクターのフリーきっぷ、青函トンネル特急利用券、宮崎空港線特急自由席券などだ。そのほかにも、普通列車が極端に少ない区間に限定して、自由席特急券の回数券を設定してもいい。これらは管轄のJR各社がきっぷを販売・回収し、きちんと列車ごとに売り上げを配分する。

 三陸鉄道や智頭急行、肥薩おれんじ鉄道など、青春18きっぷ利用者向けにフリーきっぷを販売した鉄道会社もある。勘違いしてタダ乗りする客を防ぐとともに、増収を期待してのことだ。これらのきっぷをJRでとりまとめ、みどりの窓口で販売する。全国の地方鉄道に呼び掛け、対応する鉄道会社を増やせば、各社の増収にも貢献できそうだ。現在の通過利用特例のように、実際の利用者を数えない仕組みよりも明朗会計だ。

 このままでは「青春18きっぷは安いけれど、ルールが面倒」という風評が広まり、利用者が減ってしまうかもしれない。その先にあるのは廃止である。それは鉄道旅行市場の損失である。青春18きっぷは残すべきだ。そのためには、誰もが安心して使える、分かりやすいきっぷに戻したほうがいい。

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