「iOS 5」「iCloud」で加速する、“怪獣大戦争”のゆくえ:遠藤諭の「コンテンツ消費とデジタル」論(3/3 ページ)
「iOS 5」や「iCloud」を発表したアップル。Mac OSとの関係を思うと、注目は「iOSアプリとWebアプリ、どちらが今後のコンピューティングの主役になるのか?」という点だ。GoogleやTwitter、Amazonも巻き込んだパワーゲームは、これからどこに向かうのだろうか。
6月7〜10日に幕張メッセで開催された「Interop Tokyo 2011」の併設イベント「InterWeb 2011」に参加させてもらうことになった。私は、6月9日のカンファレンスで「Webアプリの未来」というパネルディスカッションのモデレーターを担当した。まさに、こうした背景では最もホットな議論になるべきテーマだと思う。
左の図は、PCユーザー全体でのWebブラウザのシェアである。日本ではまだまだIEの利用比率が高く、米国では大きな比率を占めつつあるFirefoxの利用者も2割以下でしかない。Google Chromeのシェアは、約7%に達している。
右の図は、Mas OSユーザーにおけるブラウザのシェア。ここで注目すべきは、アップル標準のSafariに対して、Firefaxのシェアがほぼ拮抗していることだ。Firefoxのアドオンの豊富さや、ブックマークをPCと共有したいなどがその理由だろうか。Mac OSユーザーの48.4%が、Windowsも使っている。
ゆりかごから墓場までのアプリの世界? ユーザーに相応のリテラシーが要求されるHTML5の世界?
下図は、利用しているブラウザ別にWeb上の利用サービスを比較したものだ。「SNSの利用」では、IEとSafariで約2倍の差がある。注目すべきはIEユーザーに「ソフトの入手」と答えた人が少ないことだ。IEが初心者を含めたあらゆるレベルのユーザーに使われているのに対し、FirefoxやChromeを使う人が中上級者に偏っているのだから、当たり前のことかもしれない。しかし、世の中では「ソフトをインストールして使う人」が、大雑把に言って全PCユーザー中の2割しかいないということを示しているといえる(パッケージソフトを買う人がどれくらいいるのか、という話もあるのだが)。
ここでいう「ソフト」というのは、PCを便利にするためのツールとか、DVDレコーダーで撮った動画を携帯ゲーム機用に変換するとか、そういった種類のものが多いだろう。フリーソフトであれ、パッケージソフトとしてお店で売られているようなものであれ、従来からある「ソフトウェア」の概念の範疇にあるものだ。
それに対して、iPhoneやiPad、Androidでいう「アプリ」というのは、もちろんツールもあるが、単なる電子書籍や、ジョークソフトのようなものも含んでいる。
仮に、HTML5による「Webアプリ」の世界が、iOSやAndroidでの「アプリ」の世界に対抗していくのだとすると、従来の「ソフトウェア」という発想ではなく、iOSやAndroidでの「アプリ」のように見える必要がある。そのために「Webアプリストア」というものが注目され始めているのだろうし、グーグルはChrome OSを押していると思う。Chromeストアのトップに「Angry Birds」が出てきて驚いていたという人も少なくないとは思うが。
そして、iOSやAndroidがアプリストアだけでなく、「コンテンツ配信」、「広告」、「決済」などを統合的に提供しているのに対して、HTML5では、それらはネットの中でバラバラに拡散しているものを使うことになるのだろう。ゆりかごから墓場までのアプリの世界に行くのか、それは国家に似た貫禄を備えることになるのかもしれない(だって放送やお金までからんでくる)。それとも、ユーザーが相応のリテラシーを備えてWebアプリ(HTML5)の市場のようなごちゃごちゃした世界に向かうのか、ということだ。 【遠藤諭、アスキー総合研究所】
遠藤 諭(えんどう さとし)
1956年、新潟県長岡市生まれ。株式会社アスキー・メディアワークス アスキー総合研究所 所長。1985年アスキー入社、1990年『月刊アスキー』編集長、同誌編集人などを経て、2008年より現職。著書に、『ソーシャルネイティブの時代』(アスキー新書および電子書籍版)、『日本人がコンピュータを作った! 』、ITが経済に与える影響について述べた『ジェネラルパーパス・テクノロジー』(野口悠紀雄氏との共著)など。各種の委員、審査員も務めるほか、2008年4月より東京MXテレビ「東京ITニュース」にコメンテーターとして出演中。
コンピュータ業界で長く仕事をしているが、ミリオンセラーとなった『マーフィーの法則』の編集を手がけるなど、カルチャー全般に向けた視野を持つ。アスキー入社前の1982年には、『東京おとなクラブ』を創刊。岡崎京子、吾妻ひでお、中森明夫、石丸元章、米澤嘉博の各氏が参加、執筆している。「おたく」という言葉は、1983年頃に、東京おとなクラブの内部で使われ始めたものである。
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