ネットの世界に住む巨大なゴリラとは何か――「ソーシャルネイティブ」の時代:遠藤諭の「コンテンツ消費とデジタル」論(3/3 ページ)
FacebookやTwitter、Apple、Google……IT業界のプレーヤーたちが出す新しいサービスや製品に私たちが振り回されているうちに、実はその背後で、非常に大きな変化が起こっているのではないか。ネットとリアルで起こりつつある、その大きな変化とは……。
すべては「ネットワーク」に帰結する
しかし、これはエジプトのムバラク前大統領だけでなく、従来のメディアや政権やほとんどあらゆるビジネスが、「ネットワーク」というものと対峙しているということでもある。
そう思ったのは、その1年前に起きていたことを思い出したからだ。2009年のクリスマスの日、オランダ発デトロイト行きの航空機で爆破未遂事件があった。そして2010年1月、エジプト情勢をいま毎日のように伝えている米ABCニュースが、この事件のその後について報じていた。
なぜ、そのニュースをよく覚えているかというと、16もある米国の情報機関のマークが、画面上にズラリと並べられていたからだ。そして、テロに関係する可能性のある情報は、16の情報機関から国家テロ対策センターに報告され、集中的に管理される。空港の管制センターのような部屋の様子が映し出され、「世界中から入ってくるテロの情報をここで分析します」というナレーションが入った。
しかし、この階層型・集中管理のやり方で、オバマ大統領はテロとの戦いを変えられるのだろうか? 米国が、いまネットワークの研究に熱心なのは、海兵隊のような整然とした組織よりも、自然界のネットワークに近いテロ組織のほうが柔軟で壊れにくいからだという話もあった。このニュースを見たときに、米国が戦っている相手は「ネットワーク」なのだと思ったのだ(2011年5月に、10年以上の歳月をかけてビン・ラディン氏にたどりついたのが、パキスタンの平和な住宅地だったというのも皮肉とも思える)。
これから、さまざまな形のネットワークの中で我々は暮らすようになり、社会もそれに対応して変化していかなければならないだろう。
ソーシャルメディアが当たり前の時代に、日本人の消費行動やライフスタイルはどう変化するのか? 『ソーシャルネイティブの時代』では、そのヒントとなるデータとトピックを拾って掲載している。アスキー総研の1万人調査「MCS(メディア&コンテンツ・サーベイ)」の2011年版の集計と並行して執筆したために、本当にイントロダクションというレベルだが、少しでもご興味のある方は手にとっていただけるとうれしい。
それは、イチゼロ年代の日本人が、iモードやYahoo! BBがはじまった10年ほど前とは、まるで別の動物になっているといってもよいからだ(例えば、情報のやりとりから世の中を見る数理社会学の視点からすれば)。彼らは、ソーシャル化して、賢く、つましく暮らすという傾向もあり、震災後の日本により浸透していくはずである。【遠藤諭、アスキー総合研究所】
遠藤 諭(えんどう さとし)
1956年、新潟県長岡市生まれ。株式会社アスキー・メディアワークス アスキー総合研究所 所長。1985年アスキー入社、1990年『月刊アスキー』編集長、同誌編集人などを経て、2008年より現職。著書に、『ソーシャルネイティブの時代』(アスキー新書および電子書籍版)、『日本人がコンピュータを作った! 』、ITが経済に与える影響について述べた『ジェネラルパーパス・テクノロジー』(野口悠紀雄氏との共著)など。各種の委員、審査員も務めるほか、2008年4月より東京MXテレビ「東京ITニュース」にコメンテーターとして出演中。
コンピュータ業界で長く仕事をしているが、ミリオンセラーとなった『マーフィーの法則』の編集を手がけるなど、カルチャー全般に向けた視野を持つ。アスキー入社前の1982年には、『東京おとなクラブ』を創刊。岡崎京子、吾妻ひでお、中森明夫、石丸元章、米澤嘉博の各氏が参加、執筆している。「おたく」という言葉は、1983年頃に、東京おとなクラブの内部で使われ始めたものである。
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