ANA特別塗装のボーイング787初号機が羽田に到着:秋本俊二の“飛行機と空と旅”の話(3/3 ページ)
ボーイングが開発を進めてきた次世代機787“ドリームライナー”がついに完成。9月26日にローンチカスタマーのANAに引き渡され、翌27日早朝にシアトルを発った787は、日本時間の9月28日午前9時過ぎに羽田に到着した。
優雅で美しいシルエット
報道陣の動きがあわただしくなってきた。新聞社やテレビ局から派遣された記者やカメラマン、ニュースキャスターらの顔に緊張が走る。「到着は9時前後の予定!」と、先ほどANAスタッフからハンドマイクで伝えられた。取材班のカメラに取り付けられた超望遠のレンズが、どれも同じ方向を向いている。
午前9時を回ったとき、近くにいた記者数人が同時に「来た!」と呟いた。カメラのレンズが一斉に動く。C滑走路の南側の空に、787が小さくその姿を現した。午前中のこの時間帯は南の空がちょうど逆光になって、黒い塊にしか見えない。それでもハッキリと787だと分かるのは、左右に大きく広げた翼が独特のシルエットをかもし出しているからだ。
787は中型セミワイドボディ機767の後継機として位置付けられている。全長54.9メートルの767-300と比較してボディの長さは56.7メートルとほぼ変わらないが、特徴的なのはウイングスパンだ。両翼の端から端までが767-300は47.6メートルなのに対し、787は60.1メートルもある。従来のアルミ合金に代わり軽くて強いカーボンファイバー複合材が採用されたことで、主翼の大型化が実現した。飛行中は主翼の両端が上に反り返って、優雅で滑らかな曲線を描き出す。その姿を目の当たりにした大手新聞社の女性カメラマンの口から、思わず「美しい!」という声が漏れた。
9時2分にタッチダウン
滑走路に近づくにつれ、1号機と来月受領する2号機だけに施された特別塗装のデザインがくっきりと浮かび上がってくる。ここ原動機センターの屋上には、いつの間にかつなぎ服姿のANA整備士たちも上がってきていた。高度を少しずつ落としながらC滑走路に進入して、私たちの正面を通過し、9時2分についにタッチダウン。その瞬間、報道陣やANAスタッフたちの間で大きな拍手と歓声がわき起こった。
その後の会見では、シアトルからのフェリーフライトに乗務した3人の機長が挨拶。羽田到着時にキャプテンシートに座っていた早川秀昭機長は「上空で旋回したいとか、高度を上げ下げしたいといったパイロットの意思に対して、この飛行機は非常に素直にきめ細かく反応してくれます。キャビンの快適性も大きく進化しました。これから1カ月間、より安全で快適なフライトをみなさんに提供できるよう社員一丸となって準備を進めてまいりますので、新しい空の旅をぜひ体験してみてください」と話した。
ANAは787を計55機発注している。最初の営業運航は10月26日の成田から香港へのチャーターフライトで、その後11月1日から羽田/岡山と羽田/広島の国内線に就航。12月には羽田/北京、2012年1月には羽田/フランクフルトで国際線デビューを果たす。787はこの連載でも数回にわたってレポートしてきた。次はいよいよ、就航後の787体験搭乗レポートをお届けする予定だ。
著者プロフィール:秋本俊二
作家/航空ジャーナリスト。東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら各メディアにレポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオのコメンテーターとしても活動。
著書に『ボーイング777機長まるごと体験』『みんなが知りたい旅客機の疑問50』『もっと知りたい旅客機の疑問50』『みんなが知りたい空港の疑問50』『エアバスA380まるごと解説』(以上ソフトバンククリエイティブ/サイエンスアイ新書)、『新いますぐ飛行機に乗りたくなる本』(NNA)など。
Blog『雲の上の書斎から』は多くの旅行ファン、航空ファンのほかエアライン関係者やマスコミ関係者にも支持を集めている。
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