タクシーに乗ってみたら、高齢の運転手さんがマルチリンガルだった:サカタカツミ「就活・転職のフシギ発見!」(4/4 ページ)
普段は外国人相手の観光案内が多いという運転手さん。前職では東南アジアを中心に日本企業の進出支援を手掛けていたそうですが、帰国後の転職市場ではその経験を持てあましてしまったと言います。
キャリアは不思議な方向に転がったが、意外な共通点があった
「例えば、本当だったらある程度の語学力がないと、案内するほうはもちろんですが、されるほうの満足度は得られないはずです。でも、会社としては古い人、要はベテランを優遇してしまう。そういう人は、タクシーの運転手としては優れているけど語学はカタコト」
「お客さまにとって、どちらがいいのかしら?」と、自問自答してしまうことも多いと運転手さんはボヤキます。話を聞きながら、私はいろいろと考えてしまいました。例えば、多くの人がまだ持ち合わせていないスキル(=語学力)やキャリア(=海外生産拠点の立ち上げ)がある、けれども、だからこそスペシャリスト的な働きができるがゆえに、雇用条件が不安定になった。
結果として、別の仕事に就くことになって、スキルを生かせることになったけれども、そこでなぜか雇用形態としてはないはずの『年功序列』の壁に打ち当たってしまった、と。当然、運転手さんの独り語りなので、会社からの視点が欠けていますし、事実関係も分かりません。しかし、長く働くということを考えると、興味深いエピソードが満載です。
どこにいっても通用するスキルとキャリアを持つべきと多くの人はいいます。確かにその通りでしょう。しかし、そのスキルとキャリアが身動きを制限する、もしくは生かせないことが、自分の中で「モヤモヤした感情」を生み出してしまう可能性もある。そう考えると、何が正解なのかなど終わってみないと分からにものだと、しみじみ思ってしまったのです。
そうこうしているうちに、タクシーは目的地に着いてしまいました。名残惜しいのですが、この運転手さんともお別れです。私は自分の身分を明かして、「興味深い話でした。いずれ連載コラムの中で今日の話を書きたいと思っています」と伝えたところ、「いやー、取材でしたか、うれしいです」と喜ばれてしまいました。当然取材でも何でもなく、ただの移動だったのですが(笑)。
「働く」を考えるといろいろなことを悩みがち。そして、正解があるのではないかと探します。しかし、人によって価値観が違うように、働くということに対しても、その考え方は違ってきます。人の数だけ働くカタチがあり、働くカタチの数だけドラマがあるのです。今日、皆さんが出会う人たちの「仕事」に思いをはせると、いつもと違った風景が見えるかもしれません。
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