劇的に進展するクラウドファンディングの“今”:入門クラウドファンディング(3/3 ページ)
クラウドファンディングは古くからある資金調達手法ですが、なぜ今改めて注目されているのでしょうか? それには、大きく分けて2つの時代背景があります。
専門家による大型投資から「リーン・スタートアップ」と「クラウド」の時代へ
流れは「リーン・スタートアップ」へ
インターネットの普及に続いて2番めの背景となるのは、ビジネスを取り巻く環境の変化です。
90年代後半に「ドットコム・バブル」と呼ばれる、IT企業への闇雲な投資が米国を中心に行われ株価が高騰しました。しかし、そこでうたわれていた事業計画は現実的ではないものも多く、21世紀に入り株価は下落、多くのIT企業が倒産し投資会社や投資家は多大な不利益を被りました。
その後は初期コストをあまりかけず、まずは試作品やα版、β版といったテスト版を作って顧客の反応を見ながら規模を大きくしていく、近年書籍のタイトルにもなって話題になった「リーン・スタートアップ」の流れに世の中は向かいます。
07年に起きた世界金融危機(サブプライムローン問題)もこの流れを後押しします。とくにIT系ビジネスでは初期の設備投資額も少なく、ビジネスを立ち上げるのに膨大な資本金は必要ありません。また投資側としても、巨額の投資をするには市場の動きを見る時間が必要ですが、他方で市場の変化が激しい現代、参入の遅れは致命的になる場合もあります(※7)。
その流れにのって05年に設立されたベンチャー・キャピタルのYコンビネーター社(米国)は、初期段階にそれほど大きくない額を投資する手法で次々に将来有望なスタートアップに投資し、脚光を浴びました。
このように、新しいビジネスを立ち上げるのにそれほど巨額の資金を必要とせず、人々から少額ずつ調達していてもまかなえる事業規模になってきていることも、クラウドファンディングが今の時代に有効であることの理由だと思われます。
さらに言えば、前項で述べた可視化され集まった人々=クラウドは、ただ「数が多い」以上の力を持っていることが説かれ始めました。いわゆる「集合知」「みんなの意見は案外正しい」(※8)と呼ばれる現象です。
同時に、インターネットの出現により知識へのアクセスが劇的に容易になり、安価あるいは無料で利用できる個人的な表現ツール(SNS)が普及したため、従来、専門家しか使えなかった特権的なツールが少なくなり、専門家とアマチュアの垣根が低くなっています。「プロシューマー」の誕生です。プロシューマーとは、コンシューマー(消費者)とプロデューサー(生産者)を合成した新しい概念で、製商品の企画や開発に関与する消費者のことを言います。
これらが重なり、有望なプロジェクトや人を見つけ、その信頼性を判断したうえで投資するといったプロセスについても、専門家以外の人々が担えるようになったのです。
クラウドファンディング専用の「プラットフォーム」が登場
これらの社会的背景とインターネットの高速化、常時接続による普及、少額のオンライン決済手段の充実によって、06年頃からクラウドファンディング専用のプラットフォームが登場します。ワード・スパイにこの言葉が新語として登録されたのがまさにこの年です。
クラウドファンディング専用のプラットフォームとは、資金調達を望むプロジェクトの内容と計画さえ運営会社の基準を通れば、誰でもそのキャンペーンの告知ページを作り、インターネット決済で資金を集めることができるWebサービスです。これにより、Web制作の詳しい知識がなくても、またインターネット決済会社への申込などの準備をしなくても、企画内容さえしっかりしていれば誰もがクラウドファンディングを利用することが可能になりました。資金調達はグッと身近になったのです。
プラットフォーム草創期に開始されたクラウドファンディング・プラットフォームのうち、現在もサービスを続けているのはミュージシャン向けのセラバンド(Sellaband:欧州/06年開始)(※9)、幅広いジャンルを手がけるインディゴーゴー(indiegogo:米国/08年開始)、そして現在全世界で最も有名なクリエイターやアーティスト向けのクラウドファンディング・サービスのキックスターター(Kickstarter:米国/09年開始)などがあります。
(つづく)
著者プロフィール:
山本純子(やまもと・じゅんこ)
株式会社アーツ・マーケティング代表。1997年、慶応義塾大学文学部美学美術史学専攻卒業。
大学在学時よりゲーム業界に携わり、主にオンライン・ゲームのマーケティング、調達、事業開発等に従事。
2009年、慶応義塾大学大学院アート・マネジメント分野修士課程に入学。同年末にITの力で芸術を広めるために(株)アーツ・マーケティングを創業。
2011年、修士課程修了後よりクラウドファンディングの研究を始め、慶応義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)を経て、現在、企画・コンサルティング・事業開発、および講演・レクチャー等に取り組む。
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