一億総スマートフォン化で親に問われる自衛への意識:小寺信良「ケータイの力学」
ハイエンドケータイに変わって普及が見込まれているスマートフォン。オープンで自由な環境がもてはやされる一方で、子供たちがスマートフォンを使うことによる影響も看過できないものがある。親としては、どういう対応が必要なのだろうか。
これまで子どもがケータイを使うことの安全性確保に関しては、サービスプロバイダ自身の浄化作戦やキャリアによるフィルタリング、ネットリテラシーの啓蒙・教育活動といった複合要因によって、最悪の事態に至る前になんとか引き返すことができた。いわゆる「ガラパゴスケータイ」(ガラケー)と呼ばれる従来のケータイの世界に関してはやれることはやってきたし、成果も上がってきていると見ていいだろう。
その一方で現在懸念されているのが、子どものケータイがスマートフォンに変わっていくことである。すでにiPhone、Androidスマートフォンをお持ちの方も相当あると思うが、これらのデバイス、特にOSとしての自由度は、従来のケータイとは比較にならない。とくにアプリケーションによって機能がどんどん拡張できるという姿は、「通信できるPC」の領域で考えていく必要がある。
大人がどんどんスマートフォンに乗り換えていく中で、子どもだけがいつまでもケータイのままという状況は、考えにくい。年頃の子どもは背伸びをして、大人と同じものを持ちたがるからである。そうなったときに、これまでのケータイと同じ手法でフィルタリングできるのか。そもそもフィルタリングが可能なのか。
スマートフォンの特徴とは、Webサービスをアプリ単位で切り分けることである。Webメールやスケジュール、天気予報、SNS、ソーシャルメディアへのアクセスは、基本的にはWebブラウザ1つあればこなすことができる。PCではそのように使っている人も多いだろう。一方スマートフォンでは、それぞれの機能を切り分けて別の専用アプリ化する傾向が強く見られる。沢山のアプリが、それぞれ別の目的でネットにアクセスするわけである。
従来のケータイフィルタリングは、キャリア側で一元的に網をかける。携帯電話網を使ってアクセスする限りにおいては、スマートフォン上でアプリが変わっても対応は可能だろう。しかしスマートフォンはより高速なWebサービスを享受するため、Wi-Fiネットワークに切り替える機能を持っている。家庭内や店舗内のアクセスポイントに子どもたちが接続することは、避けられないわけである。
家庭内無線LANをなんとかできないか
同じ問題はゲーム機にもある。ゲーム機がネットにつながる主な理由は、自社が管理するゲームコンテンツの販売である。したがってそのアクセスは、まず自社サイトに誘導されていく。しかしブラウザ自身にはデフォルトでは何のフィルタリングもされていないので、そこが無法地帯になる可能性がある。
これに対しては、有償のフィルタリングを設定することができる。例えばPS3では、「i-フィルター for PS3」(月額315円)か、「トレンドマイクロ キッズセーフティ for PS3」「トレンドマイクロ ウェブセキュリティ for PS3」(年間1980円、両方で3480円)が選択できる。さらに言えば、ゲーム機ではそのプラットフォームで動くソフトウェアはメーカーががっちり管理しているので、子どもが独自に変なソフト入れて網を抜けるといったことは考えにくい。
しかしスマートフォンの場合、あるいはiPadやiPod touchでも同じだが、iPhoneでJailbreak(App Store以外からもアプリケーションを入れられるよう、制限を外す行為)が合法になったように、ちょこっとしたツールを使うだけでやりたい放題になる可能性もある。もっと簡単な方法では、PCにつないで工場出荷時に「復元」されてしまうと、もう親が何をやっても無駄である。そういう意味ではPCと似ていて、せっかくフィルタリングソフト導入しても、リカバリーDVD-ROM使ってOSクリーンインストールされたらアウト、という状況と似ている。
一般的なケータイならともかく、Wi-Fiにつながる端末が増えてくると、もうそれぞれの端末ごとに固有の仕掛けを施していくのは、無理な時代に突入しつつあるということだ。リテラシー教育がまず先にあるべきという考えは変わらないが、ペアレンタルコントロールという視点では、親はもう少し上流に上って一元管理する必要がある。
親が家庭でやれそうな自衛手段を考えてみると、Wi-Fiルータになんらかの仕掛けを作れないか、と思う。デバイスごとのMACアドレスは分かるわけだから、ルータにフィルタリング機能を持たせ、例えばゲーム機やテレビは誰が使おうとフィルタリングはしとこうよ、とか、子どものスマートフォンはフィルタリング行き、とか、家庭のデバイスごとに振り分けができたらな、と思う。あるいは子どもも使うフィルタリングありチャンネルと、大人用のフィルタリングなしチャンネルの2波に分けるといったことでもいい。
またルータなど一度買ったら、壊れるか新規格が出るまでは稼働し続けるわけだから、だいたい3~5年ぐらい電源を入れっぱなしである。自動でフィルタリング用のリストをアップデートできるだろう。子どもの年齢をセットしておけば、自動的に成長に合わせてフィルタリング枠を変動させていくとか、そういうこともできるのではないか。
ケータイのサービスプロバイダが安全・安心を売りにできたように、ルータ市場もこういった安全・安心が競争力になる可能性もまた、あるのではないかと思う。
小寺信良
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は津田大介氏とともにさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社)(amazon.co.jpで購入)。
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